症例:11 歳,去勢オスのトイプードルが,急性の右後肢の跛行を呈した.非負重性の跛行で,足根関節部に圧痛を認めた.患部のX 線写真は図1のとおりである.
質問1:診断は何か.
質問2:最適な治療法は何か.またこの部位に必要な特有の工夫は何か.
症例:11 歳,去勢オスのトイプードルが,急性の右後肢の跛行を呈した.非負重性の跛行で,足根関節部に圧痛を認めた.患部のX 線写真は図1のとおりである.
質問1:診断は何か.
質問2:最適な治療法は何か.またこの部位に必要な特有の工夫は何か.
質問1に対する解答と解説:
右踵骨中央部での横骨折もしくは粉砕骨折.尾側は横骨折に見えるが,頭側に小さい骨片が存在している可能性がある.
質問2に対する解答と解説:
踵骨の近位端は腓腹筋腱とその他の腱(大腿二頭筋・薄筋・半腱様筋の複合腱)が付着しており,着地するたびに近位に向かう牽引力が発生する.また足を挙上していても腓腹筋の収縮力で常に牽引力がかかった状態にある.ギプスやバンデージなどの外固定はこの牽引力に抵抗することができないため,骨折断端が引き離され間隙が開こうとする状態が続く.したがって外固定では骨折癒合は期待できない.
横骨折であればテンションバンドワイヤー法が理想的な固定法である.テンションバンドワイヤー法は,ワイヤーを締結する力で骨折片を引き寄せているのではなく,骨片間に働く牽引力(引き離す力)を圧縮力(押し付ける力)に変換する装置であることを理解する必要がある.テンションバンドワイヤーが適切に適用されれば,体重の負荷が始まっても骨片同士はむしろお互いに圧着されるため,整復位の維持に働くこととなる,術後の外固定は通常不要であり,数日後には負重を許可できる.テンションバンドワイヤー法の特性として,負重・歩行しながらの骨癒合達成が期待できる.
粉砕骨折であれば外側面へのプレート設置が推奨される.今回の症例では小さな粉砕骨折の可能性はあるが,手術中も粉砕骨折は肉眼的に確認できなかった.また,テンションバンドワイヤー法に十分な量と強度の皮質骨を確保することが可能であり,また骨折線を圧着することで十分な安定性が得られたので,テンションバンドワイヤー法を選択した.
さらに,踵骨のテンションバンドワイヤー適用に際しては幾つかの点で特殊な工夫を追加する必要がある.
キーワード: 犬,踵骨,骨折,テンションバンドワイヤー法