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獣医師生涯研修事業Q&A 小動物編

獣医師生涯研修事業Q&A 小動物編(日本獣医師会雑誌 第77巻(令和6年)第10号掲載)

症例:ケアン・テリア,15歳齢,去勢雄

主訴:多飲多尿及び脱毛

病歴及び主訴:数カ月前から認められている多飲多尿と非掻痒性の脱毛が悪化傾向であったため,動物病院を受診した.ACTH 刺激試験を行ったところ,刺激前のコルチゾールは5.7 μg/dl,刺激後のコルチゾールは14.4 μg/dl であった.体重に変化はみられておらず,活動性や食欲に問題はない.薬剤の投与歴はない.

身体検査:背部において脱毛を認めたが(図1),その他に明らかな異常は認められなかった.

血液検査・血液生化学検査(表1):リンパ球数と好酸球数の減少,血小板数の増加,軽度の高血糖,BUNの軽度上昇,肝酵素活性の上昇,高リン血症,及び高コレステロール血症を認めた.

尿検査:比重 1.009,尿蛋白/ クレアチニン比 1.504


質問1:多飲多尿と非掻痒性脱毛の原因として最も疑われる疾患は何か.

質問2:最も疑われる疾患の診断のために追加すべき検査は何か.


図1 症例の外観

解答と解説

質問1に対する解答と解説:
本症例の主訴である多飲多尿と非掻痒性脱毛をいずれも認める犬の疾患の代表例は副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)である.一方で,多飲多尿を示す疾患(慢性腎臓病など)と非掻痒性脱毛を示す疾患(甲状腺機能低下症など)がそれぞれ独立して存在する可能性も考慮しなくてはならない.血液検査と尿検査の結果から,慢性腎臓病の可能性は十分に考えられる.脱毛以外に甲状腺機能低下症に関連する明らかな症状(活動性の低下や体重の増加など)は認められていないことから,甲状腺機能低下症を強く疑う状況ではないと判断できる.症状に加え,リンパ球数と好酸球数の減少,血小板数の増加,軽度の高血糖,肝酵素活性の上昇,高リン血症,高コレステロール血症,及び蛋白尿は,いずれもクッシング症候群に一致する.ACTH 刺激試験の結果はクッシング症候群に一致せず,慢性腎臓病の併発が疑われる状況であるが,多飲多尿と非掻痒性脱毛の原因としてはクッシング症候群が最も疑われる.薬剤の投薬歴はないことから,医原性クッシング症候群は除外できる.


質問2に対する解答と解説:
本症例の腹部超音波検査では,左副腎がやや萎縮しており(頭極2.6 mm厚,尾極4.8 mm厚,図2),右副腎は腫瘤状に腫大していた(14.8 mm,図3).症状,臨床検査所見,及び画像所見から副腎性クッシング症候群が強く疑われ,この状況で追加すべき検査は低用量デキサメタゾン抑制試験(LDDST)である.LDDST はACTH 刺激試験より感度が高く,クッシング症候群の診断における感度は85~100%と報告されている[1].特に,副腎性クッシング症候群では感度がほぼ100%となる.LDDST は,グルココルチコイドフィードバックに対する感受性を評価する検査である.副腎性クッシング症候群では,副腎皮質から過剰に産生されるコルチゾールが視床下部- 下垂体- 副腎軸を抑制する方向にはたらいているが(グルココルチコイドフィードバック),副腎皮質腫瘍がコルチゾールを自律的に産生し続けている.つまり,副腎性クッシング症候群ではグルココルチコイドフィードバックに対する感受性が消失しているはずであり,理論的にはLDDST でまったく抑制されないはずである.本症例に対してLDDST を実施した結果,抑制がまったくみられなかった(表2).また,血中の内因性ACTH 濃度を測定したところ,検出限界以下(<5 pg/ml)であり,副腎性クッシング症候群に一致していた.

以上の結果から,本症例を副腎性クッシング症候群と診断した.


図2 左副腎の超音波画像
図3 右副腎の超音波画像


参考文献

  • [ 1 ] Bennaim M, Shiel RE, Mooney CT : Diagnosis of spontaneous hyperadrenocor ticism in dogs. Part 2: Adrenal function testing and dif ferentiating tests, Vet J, 252, 105343 (2019)

キーワード:犬,ACTH 刺激試験,低用量デキサメタゾン抑制試験,副腎皮質腫瘍,クッシング症候群