質 問:5 頭の母豚を対象に妊娠・子宮診断を超音波画像法で実施し,以下の所見を得た.おのおのの診断結果と,判定の根拠を述べよ.なお,各症例の診断実施時期は,発情・交配(人工授精)後の経過日数として各データに示したとおりである.
質 問:5 頭の母豚を対象に妊娠・子宮診断を超音波画像法で実施し,以下の所見を得た.おのおのの診断結果と,判定の根拠を述べよ.なお,各症例の診断実施時期は,発情・交配(人工授精)後の経過日数として各データに示したとおりである.
1 豚の妊娠診断の概況と課題
豚の妊娠診断は 牛や馬と異なり,その体格などの理由により直腸検査法は一般的でなく,単なるノンリターン法が主体であったが,最近では超音波画像診断法(B モード法)が急速に普及・利用されてきている.なお,日常の妊娠診断の実施は日常的で,対象数がきわめて多いことから農場の管理者が実施しているのが現状であり,獣医師は往診時に必要に応じて対応するか実務者の技術指導を行うのが実際である.このような現状から,獣医師の妊娠診断技術に関する経験値は決して高くない状況で,また,現場技術者も基本的な診断理論の素養がないまま表面的な判定知識の範囲で実施していることも多いため誤診を看過していることも容易に想定でき,隠れた課題でもあると指摘できる.
2 基本事項
診断に際しては,左または右の最後乳頭から 2 番目乳頭付近の下腹部無毛皮膚部に体表用探触子を密着させ,身体の中心部に向けた状態で胎囊や胎子の画像を探索する(図 1).
通常,現場技術者に対する診断ポイントとしてはエコーフリー所見(胎囊)の確認が基準であると伝えられている場合が多く,また現場では作業効率からもエコーフリー所見の存在を指標にしている.しかし,腹部のエコー所見としては膀胱や大型多胞性卵巣囊腫においてもエコーフリー所見が認められるため,可能なかぎり胎子関連画像(妊娠確徴)を得て判定するように心がけることが誤診防止のポイントとなる.
また,豚の場合は多胎動物であることから,片側での判定が難しい場合は反対側も検査し,さらにノンリターン(妊娠半確徴)所見などもふまえて判定することも必要である.
なお,交配後 18 日前後の時期から胎囊や胎子が確認でき始めることから,農場では交配後 21~24日頃に診断を実施しているのが一般的である.
超音波画像診断による診断精度は技術者,診断時期(妊娠日齢),機器とプローブなどによって変動を受けることを十分理解したうえで,可能なかぎり胎子関連像である妊娠確徴を確認するように努めることが精度向上のためには重要と思われる.
3 解答と解説
症例 1:受胎例である.いくつかのエコーフリー所見が認められ,その中でもほぼ中央部に存在する最も大きい胎囊では,腔内左下に胎子関連の像が明確に認められていることから,妊娠確徴であると判定された.
症例 2:不受胎例である.21 日齢での子宮内エコーフリー所見は認められない.通常では,さらに数日経過した時点で再検査が必要である.本症例では,翌 22 日齢に発情が回帰した.
症例 3:判定不能である.診断日が 16 日齢であることから,後日,再検査が必要である.本症例の経過では,図 2,3 のように 18 日齢で中央下側に小さな胎囊が認められ,25 日齢には胎囊所見は拡大し,かつ胎子関連画像も認められている.診断時期が早い場合,受胎していても妊娠所見が得られないことを示している.
症例 4:不受胎及び化膿性子宮内膜炎である.臨床所見として外陰部から膿の排出があり,画像所見では中央部右側に高輝度の大きな集塊が認められ,子宮内に膿の貯留があると判断された.授精時の不衛生手技が一因と推察された.なお,左下のエコーフリー像は膀胱と判断された.
症例 5:多胞性大型卵巣囊腫と判定.妊娠時の胎囊所見と卵巣囊腫の囊胞とは,エコーフリー所見は類似していることが多く,妊娠診断時での誤診の可能性が高いため要注意である.ただ,症例 1 と本症例の所見を比較すると明瞭なように,囊胞内壁の厚みなどの状況には明らかな差異があり,当然であるが卵巣囊腫では胎子関連像は認められない.なお,豚の大型多胞性卵巣囊腫発生後の経過を画像で観察すると,囊胞内の初期はエコーフリー所見のみであるが,治癒開始頃の囊胞内には網目状で繊維様構造物が発現する傾向が認められている(図 4).
参考文献
キーワード:豚妊娠診断,超音波画像診断,卵巣囊腫,子宮内膜炎