動 物:ホルスタイン種(乳用牛)
年 齢:8 歳
主 訴:食欲不振を呈し痩せてきた.
現 症:頸静脈の怒張(図 1),体温 39.7℃,心音微弱,血液検査結果(白血球数 16,000個 µ/ml,核の左方移動,Alb 2.2g/dl)であった.タンパク泳動像(図 2),心電図検査結果(図 3),及び胸部(心)エコー像(図4)を示した.
質問:この患畜の診断名と診断のポイントをあげよ.
動 物:ホルスタイン種(乳用牛)
年 齢:8 歳
主 訴:食欲不振を呈し痩せてきた.
現 症:頸静脈の怒張(図 1),体温 39.7℃,心音微弱,血液検査結果(白血球数 16,000個 µ/ml,核の左方移動,Alb 2.2g/dl)であった.タンパク泳動像(図 2),心電図検査結果(図 3),及び胸部(心)エコー像(図4)を示した.
質問:この患畜の診断名と診断のポイントをあげよ.
質問 1 に対する解答と解説:
診断名:金属性異物による胃横隔膜炎を伴った心囊炎
診断のポイント:牛の心囊炎は農場の飼養管理の改善や購入粗飼料の品質管理の向上によって臨床現場では減少傾向にある疾患である.今回,基本的な臨床症状を示した症例の臨床検査の進め方を解説した.図 1 に示した著しい頸静脈の怒張が認められた場合には重度の循環障害が考えられる.胸部の聴診から心音は微弱に聴取され,場合によっては時計の稼働音のような拍水音が聴取されることもある.この時点で金属性異物による疾患を疑い金属探知機を使用したが反応は陰性であった.血液検査からは白血球数の増加と核の左方移動,アルブミンの低下が認められ炎症性疾患を疑った.図 2のタンパク泳動像ではA/Gは 0.51でα-Glb が上昇し二峰性を示した.また,γ-Glbも著しく上昇していた.図 3 の心電図では QRS 波の低電位と ST の上昇がみられた.図 4 のエコー像からは心外膜の肥厚と著しい心囊水の貯留及びフィブリンと思われる可動性がある高エコー像が確認された.以上の所見から金属異物反応は認められなかったが創傷性心囊炎を疑った.循環障害による牛の状態が重篤なため治療としてエコーガイド下でトップ動物用静脈留置針ベニューラ A14G×100mm(東京)を用いて心囊水の除去を行った(図5).その結果,約 9l の黄色混濁した心囊水が除去され,これと同時に頸静脈の怒張も消失し,一般症状が軽減した.しかし,2 日後にふたたび臨床症状が悪化したため病理解剖を行った.図 6 に胸腔内の横隔膜と心外膜の癒着部を示した.図 7 は腫脹肥厚した心外膜を示し,同部位を切開し多量の心囊水とフィブリンに包まれた絨毛心(スクランブルエッグやパンに塗ったバターを剝がした様ともいわれる)が観察された.図 9 は癒着部から摘出された長さ84mm の金属性胃物(釘)を示した.
以上,「金属性異物による胃横隔膜炎を伴った心囊炎」と診断した.
キーワード:エコーガイド,心電図,創傷性胃炎,金属性異物,心囊炎胞