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獣医師生涯研修事業Q&A 産業動物編

獣医師生涯研修事業Q&A 産業動物編(日本獣医師会雑誌 第76巻(令和5年)第9号掲載)

症例:牛,黒毛和種,13 カ月齢,体重370kg

稟告:発育は良好で,春機発動すべき時期を過ぎても明瞭な発情を示さず,交配が行えない.

検査所見:外陰部の形状に異常はみられないものの,腟長は10cm であった(図1).直腸検査で,子宮は触知できず,卵巣があるべき場所に長径5cm ほどの楕円状の構造物が触知された.経直腸超音波検査で同構造物を観察したところ,グレー調の均質な領域内にエコー輝度の高いラインを有す超音波画像(図2)がみられた.染色体検査を行った結果,核型が60,XY であった.

質問 1:上記の稟告と検査結果から,本症例で最も疑われる疾病は何か.

質問 2:本症例を診断するうえで,他にどの様な検査が考えられるか.

図1 外陰部及び腟長

図2 腹腔内構造物の超音波画像

解答と解説

質問 1 に対する解答と解説:
牛の先天異常は,新生子牛の0.2~ 5.5%にみられ,その中でおもに生殖器に異常がみられるのは3.5~ 7.0%である.生殖器における先天異常の中で,間性は,解剖学的に完全な雌雄の性別を示さず,両性の特徴を併せもつ.牛の間性は,半陰陽とフリーマーチンに大別され,さらに半陰陽は真性半陰陽と仮性半陰陽に分けられる.真性半陰陽の性腺は卵巣と精巣もしくは卵精巣であり,仮性半陰陽の性腺は外部生殖器や二次性徴が示す性とは反対の性を示す.仮性半陰陽の性腺が,精巣の場合を雄性仮性半陰陽,卵巣の場合を雌性仮性半陰陽という.

本症例は,外貌は雌様の特徴を有していたが,腟の発達が悪く,フリーマーチンと同様の所見を有していた.フリーマーチンの場合,性腺の精巣化がさまざまな程度で認められ,その多くは卵巣と精巣の両方の組織が混在する卵精巣である.一方で,本症例の性腺の超音波画像は,卵巣ではなく精巣と類似した所見(エコー輝度の高いラインは精巣縦隔)のみで,明瞭な構造を有していた.また,フリーマーチンの場合,核型は60,XX/XY とキメラを示す.一方で,本症例の核型は,60,XY であった.以上より,本症例の最も疑われる疾病は,雄性仮性半陰陽となる.

また,本症例のような雄性仮性半陰陽では,性腺が精巣であることから繁殖供用できず,肥育転用される.しかし,精巣からテストステロン(T)が分泌され,行動の雄性化や肉質の低下が懸念される.よって,間性を鑑別することは,将来的な生産管理のうえで重要である.


質問 2 に対する解答と解説:
雄性仮性半陰陽を診断するうえで,性腺の超音波検査や染色体検査の他に,内分泌学的検査や組織学的検査がある.特に,内分泌学的検査は,性腺が超音波検査で観察できない場合(経直腸や経皮から遠い場所にある場合)に,有用な検査となる.腹腔内に精巣が停留する疾病は,雄性仮性半陰陽以外にも潜在精巣がある.

腹腔内に停留している精巣(以下,停留精巣)では,精細胞が変性するため,精子形成はみられない.しかし,ライディッヒ細胞やセルトリ細胞は存在する.そのため,人絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)を投与することで,T の産生を刺激し,より顕在化したうえで血中T 濃度を測定し,精巣の存在を知ることができる(hCG 負荷試験).また,セルトリ細胞は,抗ミューラー管ホルモン(AMH)を特異的に産生している.よって,血中AMH濃度を測定することでも精巣の存在を知ることができる.

停留精巣が疑われた場合,その後の肥育管理を鑑み,摘出手術が行われる(図3).摘出された性腺を組織学的検査することで,精巣かどうかの診断を行うことができる(図4).


図3 摘出された両側の性腺(停留精巣)
図4 摘出された性腺(停留精巣)の組織学的検査(×100 倍)

キーワード:牛,雄性仮性半陰陽,フリーマーチン,テストステロン,抗ミューラー管ホルモン