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獣医師生涯研修事業Q&A 産業動物編

獣医師生涯研修事業Q&A 産業動物編(日本獣医師会雑誌 第77巻(令和6年)第12号掲載)

症例:牛,黒毛和種,72 カ月齢,雌

診療経過:出荷2 カ月前の経産肥育牛で血尿がみられた.初診時,活力,食欲の低下はみられず,排尿にも異常はみられなかった.尿の細菌培養では,細菌は分離されなかった.初診時の血液検査の結果は表のとおりである.初診後,アンピシリンナトリウムを3 日間投与するも,血尿症状は改善されず,37 日後に急遽斃死した.死亡時,頸静脈の怒張及び頸部の浮腫がみられた(図1)

図1 頸静脈の怒張,顎~頸部の浮腫

質問1:臨床症状や経過から最も疑われる診断は何か.

質問2:本症例が発生した原因は何であると考察されるか.

質問3:本症例での有効な診断法と予防法は何か.

解答

質問 1 に対する解答と解説:
難治性の血尿を呈し突然死したため,剖検を実施したところ,腎臓,尿管及び膀胱内に多数の結石が認められた.尿石は最大2 cmの大型のものが形成(図2)され,膀胱壁や尿管壁が著しく肥厚していた.また,心囊水が中程度貯留していた.腎臓を含めた主要臓器から有意な菌の分離はなかった.

剖検の結果から腎臓で形成された結石が尿管に移動し尿路が完全閉塞(図3)し,尿毒症や循環障害を引き起こし全身状態が急激に悪化し斃死したものと考えられ,尿石症と診断した.

初診時に認めた血尿は,尿石による尿路壁の損傷に由来すると考えられ,当時は排尿を認めたことから,血液検査において腎機能の異常は顕在化していなかったと考えられる.クレアチニンは腎障害に関して鋭敏な指標ではなく,糸球体ろ過量が2/3 以下に低下した時点で血中濃度が増加する.初診時は完全尿閉ではなかったことから,BUN の上昇,食欲廃絶,疝痛などの所見も観察されていない.


図2 腎臓内に貯留していた結石(最大2 cm)
図3 尿管内に貯留した多数の結石

質問 2 に対する解答と解説:
本牛はもともと繁殖雌牛として飼養されていたが,経産肥育牛として肥育中で,1 カ月後の出荷を控えている肥育後期であったことから,穀類の多い飼料の多給,ビタミンA(VA)摂取制限によるVA欠乏,尿pH 値の上昇,カルシウム(Ca)とリン(P)給与のアンバランス,冬季の飲水量不足などが本症例の原因であると考えられた.


質問 3 に対する解答と解説:
本症例では,超音波検査による尿路系の形態評価や尿石の有無確認が有効であったと考えられる.結石は不透過性陰影で描出され,結石表面の高エコーと結石下部のシャドーを引く.腎結石では拡張した腎杯とその中に高エコーの結石像が描出される.

予防として水温の低下する冬季の発生が多いため,年間を通して水温の安定する井戸水や温熱ヒーターでの飲水量の増加,粗飼料給与の増加とCa/P比を1.0 程度に保つ,塩化アンモニウム含有の鉱塩の給与等があげられる.


キーワード:経産肥育牛,血尿,尿石