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獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編

獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編(日本獣医師会雑誌 第69巻(平成28年)第7号掲載)

平成 26 年出版の獣医学教育モデル・コア・カリキュラム準拠「獣医公衆衛生学Ⅱ」(文永堂),並びに獣医師国家試験出題基準(平成 26 年改正)に「室内環境」に関する内容が盛り込まれている.また,室内における化学物質汚染の問題は人獣共通のものとして考えられ,専門技術者に測定を依頼する場合においても,獣医師は室内環境に関する知識だけでなく,環境測定条件及び測定結果について正しく判断するための基礎的な知識があることが望ましい.


質問 1:室内に関する記述のうち誤っているのはどれか.

  • a.室内のアレルゲンとして最も多いのは花粉である.
  • b.室内環境においてダニの発生しやすい温湿度環境は,一般的に 20~ 30℃,60%以上とされている.
  • c.日本では建築物環境衛生管理基準が定められ,室内におけるホルムアルデヒド量等に管理基準がある.
  • d.シックハウス問題の原因の 1 つは,建築材料等から発生する揮発性有機化合物(VOCs)等である.
  • e.新たな室内環境問題に微生物由来の揮発性有機化合物(MVOCs)がある.

質問 2:室内の化学物質を測定する条件として誤っているのはどれか.

  • a.新築住宅の測定においては,30 分換気後に対象室内を 5 時間以上密閉し,その後おおむね 30 分間空気を採取する.
  • b.採取の時刻は午後 2~ 3 時頃に設定することが望ましい.
  • c.換気は窓,扉,建具,備付品の扉等の全てを開いて行い,密閉中は外気に面した開口部は閉鎖する.すべての操作中常時換気システムを有している場合は稼働させてよい.
  • d.居住住宅の測定においては,日常生活を営みながら空気を 24 時間採取する.
  • e.試料採取は室内では居間,寝室,及び外気 1 カ所の計 3 カ所で行う.室内にあっては部屋の中央付近の少なくとも壁から 1m 以上離した高さ 0.5mの位置で設定する.

解答と解説

質問 1 に対する解答と解説:
a.×
室内環境にはダニの虫体及び糞,真菌,花粉,動物の体毛,ソバガラ,花粉等を発生源とするアレルゲンがあり,ダニアレルゲンが最も多いとされている.花粉もアレルゲンとして問題であるが,主として室外からの侵入であり,室内濃度は通常は室外に比較して低いことが多い.ダニまたはダニアレルゲンについては学校環境衛生基準で基準が定められており,「100 匹 /m2以下またはこれと同等のアレルゲン量以下であること」となっている.

b.○
わが国の室内環境には約 110 種類のダニの存在が記録されているが,その多くは屋外から室内への迷入種である.室内生息性のダニ類は 10 種類前後とされ,チリダニ科,コナダニ科,ニクダニ科,ツメダニ科,イエササラダニ科などである. ダニの繁殖に適する室内環境は,室温 20~ 30℃,湿度 60%以上が好適であることから,近年の住宅の高断熱高気密構造や,家具,家電製品,カーペット等の敷物に加え愛玩動物飼育数の増加及びその餌などはダニの繁殖しやすい環境を形成している.また,ハウスダストにはチリダニ科の存在が多く,人や愛玩動物の垢やフケ,食品屑等を餌として繁殖し,アレルギー性鼻炎,アトピー性皮膚炎,喘息等の原因となる.

c.○
わが国では建築物環境衛生管理基準(表)があり,室内におけるホルムアルデヒド量等について基準値が定められている.

d.○
1999 年 3 月告示「住宅の省エネルギー基準」により建築外壁の断熱・気密化が進む一方で換気不足,建材,家具等に起因する揮発性有機化合物(VOCs)などの発生によりシックビル,シックハウス,シックスクールなどの症候群が問題となった.わが国ではその対策として室内の「室内濃度指針値」(厚生労働省),「学校環境衛生基準」(文部科学省),「住宅の品質確保の促進に関する法律(品確法)」(国土交通省)により揮発性有機化合物の指針値や測定の義務化,濃度表示が定められている.


表 室内環境基準(建築物環境衛生管理基準)

e.○
ホルムアルデヒド等により繁殖が抑制されていた細菌や真菌などが,同物質の低減対策により増殖する過程でアルコール類,ケトン類,その他の揮発性有機化合物を生成し,新たな室内汚染を出現させている.これらの揮発性有機化合物を総称して「微生物由来揮発性有機化合物」(MicrobialVolatile Organic Compounds:MVOCs)と呼ばれる.


質問 2 に対する解答と解説:
室内空気中化学物質の測定マニュアル「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会報告」(厚労省 平成 13 年 7 月 24 日報道発表資料)において,作成した各化学物質の室内空気濃度指針値が満たされているかどうかを厳密に判定するための標準的方法を定めている.対象となる揮発性有機化合物は,ホルムアルデヒド,エチルベンゼン,o-,p-,m- キシレン,スチレン,パラジクロロベンゼン等である.

a.○
新築住宅の測定においては,30 分換気後に対象室内を 5 時間以上密閉し,その後おおむね 30分間空気を採取する.

b.○
採取の時刻は午後 2~ 3 時頃に設定することが望ましい.

c.○
換気は窓,扉,建具,備付品の扉等の全てを開いて行い,密閉中は外気に面した開口部は閉鎖する.すべての操作中常時換気システムを有している場合は稼働させてよい.

d.○
居住住宅の測定においては,日常生活を営みながら空気を 24 時間採取する.

e.×
試料採取は室内では居間,寝室,及び外気 1 カ所の計 3 カ所で行う.室内にあっては部屋の中央付近の少なくとも壁から 1m 以上離した高さ 1.2 ~ 1.5m の位置を設定する.室外にあっては外壁及び空調給排気口から 2~5m 離した,室内の測定高さと同等の高さの所を設定する.


〔その他の条件〕
ホルムアルデヒド:空気中ホルムアルデヒドはDNPH(2,4- ジニトロフェニルヒドラゾン)捕集剤に吸着するとともに誘導体化させる. これをアセトニトリルで溶出させ,高速液体クロマトグラフで測定する.
VOCs:固相吸着/溶媒抽出法,固相吸着/加熱脱着法,容器採取法などがあり,GC あるいは GC/MS で測定する.

解説は前述の獣医公衆衛生学Ⅱ(文永堂)及び室内環境学会:室内環境学概論,東京電機大学出版局(2010)を参考にした.


キーワード:室内汚染,シックハウス,ホルムアルデヒド,VOCs,アレルゲン