獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編（日本獣医師会雑誌 第70巻（平成29年）第3号掲載）
質問 1：HACCP（Hazard Analysis and Critical Control Point）に関する記述である．正しいものはどれか．
- ａ．宇宙食の安全性を確保するために開発された衛生管理手法である．
- ｂ．食品を用いたテロ防止対策として開発された安全管理手法である．
- ｃ．最終製品の検査結果のみを安全の指標とする衛生管理手法である．
- ｄ．飲用適の水を確保できない国のみに採用される食品の衛生管理手法である．
質問 2：一般的衛生管理プログラム（前提条件プログラム）に関する記述である．誤っているものはどれか．
- ａ．HACCP 導入する前に必要なもので衛生管理の基礎となるもの．
- ｂ．地方自治体の条例で定める食品の「営業施設基準」や「管理運営基準」なども一般的衛生管理プログラムに該当する．
- ｃ．デザインされた HACCP プランが正しいかどうか，HACCP プランの要素が効果的である証拠を収集すること．プラン作成時に行うべき作業．
- ｄ．コーデックス委員会が示した「食品衛生の一般的原則の規範」が一般的衛生管理プログラムに該当する．
質問 3：HACCP の危害要因に関する記述である．誤っているものはどれか．
- ａ．生物的危害
- ｂ．化学的危害
- ｃ．物理的危害
- ｄ．歴史的危害
質問 4：HACCP の導入に関する記述である．誤っているものはどれか．
- ａ．わが国のと畜場は 2016 年に HACCP 導入が義務化された．
- ｂ．米国農務省が管轄すると畜場は 1998～ 2000 年にHACCP 導入が義務化されている．
- ｃ．オーストラリアのと畜場は 1997 年に HACCP 導入が義務化されている．
- ｄ．カナダのと畜場は 2004 年に HACCP 導入が義務化されている．
解答と解説
質問 1 に対する解答と解説
正解：ａ
HACCP とは宇宙食の安全性を確保するためにNASA（アメリカ航空宇宙局）が開発した食品の衛生管理手法で，食品の製造・加工工程のあらゆる段階で発生するおそれのある微生物汚染等の危害要因をあらかじめ分析（Hazard Analysis）し，その結果に基づいて，製造工程のどの段階でどのような対策を講じればより安全な製品を得ることができるかという重要管理点または必須管理点（CriticalControl Point）を定め，これを連続的に監視することにより製品の安全を確保する衛生管理の手法である．この手法は国連の食糧農業機関（FAO）と世界保健機関（WHO）の合同機関である食品規格（コーデックス）委員会から発表され，世界各国にその採用を推奨しているものである．
質問 2 に対する解答と解説
正解：ｃ
一般的衛生管理プログラムは HACCP システムを効果的に機能させるための前提となる食品取扱施設の衛生管理プログラムで，前提条件プログラム（Pre-Requisite Program：PrP）ともいわれる（図）．コーデックス委員会が示した「食品衛生の一般的原則の規範」が基本となっており，地方自治体の条例で定める「営業施設基準」や「管理運営基準」などが該当する．「ｃ．」は HACCP 導入のための 7原則 12 手順の原則 6 の検証・妥当性確認の項目である．
質問 3 に対する解答と解説
正解：ｄ
HACCP の危害要因は生物的，化学的，物理的の3 つである．生物的はサルモネラ，カンピロバクター，病原性大腸菌などの病原微生物や寄生虫など付着や寄生，化学的は動物用医薬品や農薬等の残留， 物理的は石や金属片などの混入である．HACCP は原料の入荷から製造工程，出荷までのあらゆる工程で，発生する危害要因を分析し，衛生を保持するために管理する必須の工程を管理，記録する手法である．
質問 4 に対する解答と解説
正解：ａ
2015 年 4 月からと畜場・食鳥処理場・食品衛生法該当施設は「HACCP 導入基準」と「従来基準」を選択できるようになった（図）．よって，まだ，導入は義務化されていない．
米国に牛肉を輸出していると畜場は米国の基準に合わせなければならなかったので，1999 年からHACCP を導入している．また，大手のと畜場，食鳥処理場，食品衛生法該当施設はすでに HACCP を自主的に導入している施設も多い．HACCP は国際的な規格であるので，オリンピック・パラリンピック等の国際的なイベントへの食品納入企業にも求められている．
キーワード：HACCP，一般的衛生管理プログラム，危害要因，HACCP導入
