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獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編

獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編(日本獣医師会雑誌 第71巻(平成30年)第3号掲載)

Q 熱は Coxiella burnetii(コクシエラ・バーネッティー)を原因とする細菌感染症で,一般的な病型はインフルエンザ様症状を示す急性 Q 熱である.慢性型の Q 熱は世界的にも発生事例は少ないが,心内膜炎など重篤な症状を呈し,概して予後不良である.さらに近年,post Q fever fatigue syndrome(QFS)と呼ばれる,新たな病型が明らかとなった.

他方,コリネバクテリウム・ウルセランス感染症は,Corynebacterium ulceransTOX+による細菌感染症で,2018 年初頭には国内での感染・死亡事例が公表されている(発生は 2016 年).両感染症ともにわが国における報告件数は決して多くはないが,今後注目の人獣共通感染症として,本欄に取り上げることとした.


質問 1:Q 熱に関する以下の記述のうち,正しいものを選びなさい(複数回答可).

  • a.ドキシサイクリンの投与は無効である.
  • b.この疾病の原因菌は細菌分類学上,リケッチア属の細菌である.
  • c.わが国では,この疾病の原因菌は乳の殺菌における指標菌である.
  • d.原因細菌は,無生物培地では培養できない.
  • e.post Q fever fatigue syndrome(QFS)と慢性疲労症候群の関連が報告されている.

質問 2:コリネバクテリウム・ウルセランス感染症に関する以下の記述のうち,間違っているものを 1 つ選びなさい.

  • a.ヒトの予防策として 4 種混合ワクチン(DPT-IPV)接種が有効である.
  • b.わが国では小児の感染事例は報告されていない.
  • c.皮膚病やくしゃみ・鼻汁がみられるイヌやネコからの感染事例が報告されている.
  • d.治療にはマクロライド系抗菌薬が推奨されている.
  • e.患者はジフテリアと同様の症状がみられる.
解答と解説

質問 1 に対する解答と解説:
正解:c,e

a.×
急性 Q 熱の治療ではテトラサイクリン系抗菌薬のドキシサイクリンが第一選択薬となる(200mg/ 日).ドキシサイクイリン過敏症の場合は,クラリスロマイシン(500mg,2 回 / 日)やオフロキサシン(200mg,3 回 / 日)などを用いる.本菌は細胞内寄生性で,症状回復後も脾臓などの網内系細胞に生残し,体内から容易に消滅しない.そのため,抗菌薬治療においては 3~ 4 週間の継続投与が望まれる.症状が改善しても 3 週間以上投与しない場合,再発することがある.脳脊髄液への浸透性が良いことから,C. burnetii髄膜炎にはフルオロキノロン系抗菌薬による治療が提唱されている.心内膜炎などの慢性 Q 熱に対する投薬治療に関しては,ドキシサイクリン(200mg/ 日)とヒドロキシクロロキン(200mg,3 回 / 日)の併用による 18~ 24 カ月間にわたる継続治療が推奨されている.

b.×
C. burnetii はレジオネラ目,コクシエラ科,コクシエラ属の細菌である.細胞内寄生性であること,サイズが 0.2~0.4×1.0µm と小さいことなどから,以前はリケッチア目に分類されていた.

c.◯
海外では乳・乳製品を介した感染を疑う事例が知られており,Q 熱は食品媒介性感染症としての側面も持つ.わが国では「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」に基づき,C. burnetii を指標菌として定めた加熱条件によって,生乳を殺菌している.

d.×
偏性細胞内寄生菌であると考えられていたC. burnetii の培養には,マウスなど実験動物,発育鶏卵卵黄囊,あるいは動物由来細胞系が用いられてきた.近年,無生物培地による培養が可能となったことから,本菌は現在,通性細胞内寄生菌であるとみなされている.

e.◯
QFS は慢性疲労症候群様の症状を呈する,慢性型 Q 熱の新たな病型である.QFS から慢性疲労症候群になった症例も知られている.QFS は急性 Q 熱発病後に続いて慢性疲労,微熱,頭痛,関節痛などが数カ月継続し,さらに睡眠障害,集中力欠如などの精神的な症状も伴い,数年間継続する.患者自身が感じている強い倦怠感などが,客観的には判別・理解され難いため,わが国においても周囲から「怠け者」「ずる休み」と言われ不登校となった,あるいは詐病を疑われた事例などが知られている.


質問 2 に対する解答と解説:
正解:b

a.◯
定期予防接種の対象である DPT-IPV4 種混合ワクチン(あるいは DPT3 種混合ワクチン)に含まれるジフテリアトキソイドワクチンが,本感染症に対しても有効であると考えられている.

b.×
2014 年に国内初となる小児の感染事例(6 歳)が報告された.

c.◯
ヒトの国内感染事例の多くはイヌやネコからの感染であることが確認されており,感染動物では無症状の他,鼻汁,くしゃみなどの風邪様症状や皮膚病がみられることがある.獣医療関係者などが感染動物や感染が疑われる動物に接する際は,手袋・マスクを着用する等の注意が必要である.一方,日常生活を送る上で,ともに暮らす動物たちに対して過度に神経質な対応をとることは,ヒトと動物のより良い関係づくりの点でも好ましいことではない.むしろ,動物と触れあった後の手洗いを確実に行うなど,日頃から一般的な衛生管理に努めることで感染リスクを低減させることが重要である.

d.◯
マクロライド系抗菌薬(エリスロマイシン,アジスロマイシン,クラリスロマイシン),ベンジルペニシリンが推奨されている.国内ではマクロライド系抗菌薬の投与による回復例が報告されている.

e.◯
ウルセランス菌(C. ulcerans)は家畜などの皮膚に常在し,ウシの乳房炎やさまざまな動物の化膿性病変を引き起こすことがある.毒素遺伝子をもつバクテリオファージの感染によってジフテリア様毒素産生能を獲得したウルセランス菌(C. ulceransTOX+)に感染した患者は,ジフテリア様の症状を呈する.


キーワード:Q熱,コクシエラ・バーネッティー, コリネバクテリウム・ウルセランス, 人獣共通感染症