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獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編

獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編(日本獣医師会雑誌 第72巻(令和元年)第7号掲載)

わが国には,野生のニホンザルが一部地域を除いて全国的に分布している.ニホンザルへの餌付け等を観光資源に活用している地域もあり,とりわけ訪日外国人には大変人気のある観光イベントである.その一方で,ニホンザルを原因とするさまざまな経済的・人的被害(いわゆる〈猿害〉)も全国各地で報告されるようになってきている.そこで今回は,サルがかかわる代表的な人獣共通感染症の「結核」と「B ウイルス病」について取り上げる.


質問 1:結核に関する記述として正しいものを 1 つ選びなさい.

  • a.原因菌はMycobacterium tuberculosisのみである.
  • b.ヒトとサル以外の動物には感染しない.
  • c.原因菌は吸血性節足動物によって媒介される.
  • d.結核に感染したサルを診断した獣医師は届出義務がある.

質問 2:B ウイルス病に関する記述として正しいものを1 つ選びなさい.

  • a.原因ウイルスはパルボウイルス科に分類される.
  • b.サルにおける原因ウイルスの感染は一過性である.
  • c.原因ウイルスはサルの唾液や体液中に排泄される.
  • d.本症に対する有効な治療薬はない.
解答と解説

質問1に対する解答と解説:
正解:d
a.×
Mycobacterium tuberculosisをはじめ,M.bovis,M.africanum,M.canettii,M.caprae,M. microti,M.pinnipediiを結核菌群(M.tuberculosis complex)と呼ぶ.M. bovis BCG株を除く結核菌群がヒトや動物に感染した場合結核という.

b.×
原因菌は,ヒトやサルのみならず,家畜の牛や水牛,野生のシカ,イノシシ,アナグマ,ゾウ等にも感染する.特に,偶蹄目は本症への感受性が高いので,注意を要する.

c.×
原因菌を含んだ空気中の微粒子(直径 5μm 以下,飛沫核)を吸い込むことによって感染が成立する(飛沫核感染あるいは空気感染).また,結核に感染した牛や水牛の未殺菌乳を経口摂取して感染することがある(経口感染).

d.○
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)では 2 類感染症に類型されている.感染症法では,結核に感染したサル(死亡個体も含む)を診断及び検案した獣医師は保健所への届出義務がある.過去には,西日本のある動物園内で飼育されていたニホンザル 1 頭が結核によって死亡し,その後同園ではニホンザルの展示が中止されている.このように,サルの結核は社会的影響力の大きい感染症であることを念頭に置いて対応することが重要である.


質問2に対する解答と解説:
正解:c
a.×
原因ウイルスはヘルペスウイルス科に属する.

b.×
本症の自然宿主は,アジア原産の Macaca 属(アカゲザル,カニクイザル,ニホンザル等)で,性成熟するまでに多くの個体が抗体陽性となる.原因ウイルスはサルに感染した後,三叉神経節や腰椎神経節内に潜伏感染する.感染サルの多くは不顕性であり,まれに舌や口唇等の粘膜面に水疱や潰瘍を形成する.

c.○
ストレスや免疫抑制等によって,感染サルの体内で原因ウイルスが再活性化すると,唾液や体液中に排泄される.したがって,本症の感染を予防するには,サルとの直接的接触を避けるとともに,手袋,ゴーグル,防護衣,マスク等を着用してサルを取り扱うことが重要である.

d.×
抗ヘルペスウイルス薬のアシクロビルやガンシクロビル等が本症の治療に有効である.


キーワード:サル、結核、Bウイルス感染症