獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編(日本獣医師会雑誌 第73巻(令和2年)第11号掲載)
質問 1:ある地域の住民から「自宅の敷地内に猪の死体がある」との通報を受けた.この場合の処置に係る法律はどれか.
- a.家畜伝染病予防法
- b.化製場等に関する法律
- c.動物の愛護及び管理に関する法律
- d.廃棄物処理法
質問 2:全国の野生鳥獣による農作物被害金額(平成 29年度)に最も近いものはどれか.
- a.12 億円
- b.164 億円
- c.239 億円
- d.1,200 億円
質問 3:わが国の猪における抗体陽性率が 90%以上(平成 26~28 年度累計)と報告された感染症はどれか.
- a.E 型肝炎
- b.豚熱
- c.豚丹毒
- d.日本脳炎
質問 4:「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)(厚生労働省)」に記載されている内容として誤りはどれか.
- a.野生鳥獣肉の処理についても,HACCP に基づく衛生管理を行うことが望ましい.
- b.腹部に着弾した個体は,内臓検査において異常が無ければ食用に供することができる.
- c.狩猟しようとする地域において野生鳥獣に家畜伝染病のまん延が確認された場合は,当該地域で狩猟した個体を食用に供してはならない.
- d.肉眼的に異常が認められない場合も,微生物及び寄生虫の感染のおそれがあるため,可能な限り,内臓については廃棄することが望ましい.
解答と解説
質問1に対する解答と解説:
正解:d
土地または建物内で発生した野生動物の死体は,廃棄物処理法第 5 条第 1 項,第 5 項の規定※により,その土地または建物の占有者(管理者)において処理することを原則とする.野生動物の死体が,自然死または交通事故死等で発生した場合は,原則として「一般廃棄物」に該当する.ただし,動物の死体を回収し供養等を行った等,「動物霊園事業」において取り扱われる動物の死体は,宗教的及び社会慣習等により埋葬及び供養等が行われるものであるため,社会通念上,廃棄物の処理及び清掃に関する法律第 2 条第 1 項に規定する「汚物又は不要物」に該当せず,よって同項に規定する「廃棄物」には当たらず,同法の規制の対象とはならないと考える.また,現在わが国において,猪における豚熱の感染が拡大しており,環境省は,猪の生息が確認されている全都府県で死亡した猪を対象とした感染確認検査を実施しており,死亡した猪を発見した場合には,発見場所の自治体(家畜保健衛生所など)に連絡するように,HP 等により周知している.
※
廃棄物の処理及び清掃に関する法律(抜粋)
第 5 条 土地又は建物の占有者(占有者がない場合には,管理者とする.)は,その占有し,又は管理する土地又は建物の清潔を保つように努めなければならない.
5 前項に規定する場所の管理者は,当該管理する場所の清潔を保つように努めなければならない.)
質問2に対する解答と解説:
正解:b
農林水産省「全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(平成 29 年)」によると,鳥獣による平成 29 年度の農作物被害金額は,約 164 億円で前年度に比べ約 8 億円減少したと報告されている.平成22 年度では約 239 億円であったものが,7 年間で約75 億円と,約 70%にまで減少した.主要な獣種別では,鹿で約 55 億円(全体の 41.9%),猪で約 48億円(全体の 36.3%)と大部分を占める.その他では,猿が約 9 億円(全体の 6.8%),ハクビシンで約 4 億円(全体の 3.2%),熊の約 4 億円(全体の2.9%),アライグマの約 3 億円(全体の 2.5%)と続く.
質問3に対する解答と解説:
正解:c
「野生獣の衛生検査に係る各種疾病抗体検査等の成績(野生獣衛生体制整備緊急対策事業)」における調査(平成 26~28 年度累計)のうち,猪における各種感染症に対する抗体検査(及び遺伝子検査)では,豚丹毒の抗体陽性率が最も高く,検査した 8県において,全体で 415 頭中 397 頭(95.7%)が,ラテックス凝集反応(4 倍以上陽性)にて陽性を示したと報告されている.これに対して,E 型肝炎の抗体陽性率(ELISA 法)は,5 県で実施され,143頭中 26 頭(18.2%),日本脳炎の抗体陽性率(赤血球凝集抑制試験)は,6 県で実施され,192 頭中 68頭(35.4%)と,比較的高率であった.一方,現在わが国で問題となっている豚熱(豚コレラ)については,同事業による調査では,ELISA 法による抗体検査,及び遺伝子検査を実施した 3 県で,150 頭からいずれも陽性例は認められなかった.
質問3に対する解答と解説:
正解:b
近年の野生鳥獣による農林水産業等に対する被害が深刻化している実態を受け,「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」,並びに「鳥獣被害防止特措法」の一部が改正され,野生鳥獣の捕獲を推進する試みが進んでいる.これに伴い,野生鳥獣の捕獲数が増加し,捕獲した野生鳥獣を食用として利活用する試みが増加することが予想される.さらに,「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律の一部を改正する法律」に対する参議院環境委員会附帯決議において,「捕獲された鳥獣を可能な限り食肉等として活用するため,国において最新の知見に基づくガイドラインを作成するとともに,各都道府県におけるマニュアル等の作成を支援するなど衛生管理の徹底等による安全性の確保に努めること」とされた.これを受けて,厚生労働省は,「野生鳥獣肉の衛生管理に関する検討会」を設置し,当検討会からの報告を踏まえて,平成 26 年 11 月,「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」を策定した.当該ガイドラインでは,野生鳥獣を食肉として利活用する際の衛生的な取扱いに関する指針がまとめられているが,本設問選択肢 b を除くその他の選択肢の記載内容が含まれる.なお,当該ガイドラインでは,「第 2 野生鳥獣の狩猟時における取扱」 1.食用とすることが可能な狩猟方法の項において,「腹部に着弾した個体は,食用に供さないこと.また,腹部に着弾しないよう,狙撃すること.」としている.
キーワード:ジビエ,野生鳥獣,猪,鹿,食用利用