獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編(日本獣医師会雑誌 第75巻(令和4年)第7号掲載)
近年,蚊やダニなどの節足動物によって媒介される人獣共通感染症が近年問題となっています.一部は致死的なものもあり,いずれも公衆衛生上重要な疾患です.今回は,これら節足動物が媒介する人獣共通感染症についておさらいします.
質問 1:ダニ類が媒介する感染症はどれか.
- 1.デング熱
- 2.マラリア
- 3.日本紅斑熱
- 4.レプトスピラ症
- 5.皮膚リーシュマニア症
質問 2:蚊やダニ類が媒介する感染症に関する説明文で正しいのはどれか.
- 1.チクングニア熱やデング熱は,ハマダラカによって媒介される感染症である
- 2.マラリアはウイルス性の疾患である
- 3.デング熱の国内での発生例はない
- 4.重症熱性血小板減少症候群の発生は西日本が多いが,近年は東日本でも発生が報告されている
- 5.日本紅斑熱には有効な治療法がない
解答と解説
質問に対する解説:
国内で問題となる節足動物媒介性感染症
蚊媒介性:日本脳炎(ウイルス)
ダニ媒介性:ツツガムシ病(細菌),日本紅斑熱(細菌),ライム病(細菌),回帰熱(細菌),野兎病(細菌),重症熱性血小板減少症候群(ウイルス),ダニ媒介性脳炎(ウイルス),エゾウイルス感染症(ウイルス)
輸入症例数の多い節足動物媒介性感染症
蚊媒介性:デング熱(ウイルス),チクングニア熱(ウイルス),ジカ熱(ウイルス),マラリア(寄生虫)
デング熱
蚊(ヒトスジシマカなどのヤブ蚊)によって媒介されるデングウイルスが原因となる蚊媒介性感染症である.
おもに東南アジア,南アジア,中南米,カリブ海諸国などで発生がみられる.国内では,海外で感染し,帰国してから発症する輸入症例として年間 200~400 例ほど報告されている.2014 年には東京で国内流行がみられ,100 例以上の患者が発生し,2019 年にも国内で感染したと考えられる症例が報告されている.比較的軽症のデング熱と,重症型のデング出血熱の 2 つの病型がある.また,不顕性感染も多いと考えられている.
チクングニア熱
蚊(ヒトスジシマカなどのヤブ蚊)によって媒介されるチクングニアウイルスが原因となる蚊媒介性感染症で,発疹性の発熱疾患である.
主にアフリカ,南アジア,東南アジアなどで発生がみられる.近年,ヨーロッパでも輸入例を発端に国内流行が発生するなど,世界的に感染地域の拡大が懸念されている.
マラリア
蚊(ハマダラカ)によって媒介される寄生虫(マラリア原虫)が原因となる蚊媒介性感染症である.
国内では発生が見られず,亜熱帯,熱帯地域を中心に発生がみられる.三日熱,四日熱,卵形,熱帯熱,その他の 5 種類に分類され,近年では最も病原性が高い熱帯熱マラリアによる輸入症例が多い.
日本紅斑熱
マダニによって媒介される細菌(紅斑熱群リケッチア)が原因となるマダニ媒介性感染症である.
国内では西日本を中心に発生がみられる.
近年では年間 200~400 例ほどの患者発生が認められ,死亡例も報告されている.紅斑熱群リケッチア(Rickettsia japonica)が原因となる疾患で,テトラサイクリン系の抗菌薬が第一選択薬となる.
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
マダニによって媒介される SFTS ウイルスが原因となるマダニ媒介性感染症である.
国内では西日本を中心に発生が見られるが,近年,北陸や静岡県など東日本でも発生が報告されている.高齢者で致死率が高く,80 代以上では20%を超える.現状で治療は対症的な方法しかなく,有効なワクチンはない.近年,犬や猫から感染したと考えられる事例も報告されている.
質問1に対する解答と解説:
- 【1】×:蚊媒介性感染症
- 【2】×:蚊媒介性感染症
- 【3】○
- 【4】×:細菌(レプトスピラ菌)に汚染された水や土壌,保菌動物と接触した際に経皮的に感染する感染症である.
- 【5】×:サシチョウバエによって媒介される寄生虫(リーシュマニア原虫)が原因となる感染症である.国内では発生が見られず,亜熱帯,熱帯,南ヨーロッパなどで発生がみられる
質問2に対する解答と解説:
- 【1】×:共にヒトスジシマカなどのヤブ蚊によって媒介
- 【2】×:寄生虫性の疾患
- 【3】×:過去に国内での感染例が報告
- 【4】○
- 【5】×:テトラサイクリン系の抗生物質が有効
キーワード:マダニ、蚊、感染症