獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編(日本獣医師会雑誌 第75巻(令和4年)第11号掲載)
質問1:野生のイノシシやシカを販売等の目的で食肉へ処理する施設は法律に伴う許可を得なければならない.その法律は何か.
- a と畜場法
- b 家畜伝染病予防法
- c 食品衛生法
- d 動物の愛護及び管理に関する法律
質問2:豚熱(CSF)の発生地域等における野生イノシシのジビエ利用に関する事項である.間違っている記述はどれか.
- a 豚熱は豚の病気であり,人獣共通感染症ではないので,食用利用に対する制約はない.
- b 豚熱発生地域では野生イノシシの捕獲を強化し,生息密度を下げる対策や,野生イノシシに抗体を付与する経口ワクチン散布,そして捕獲された野生イノシシの豚熱ウイルス感染状況検査を実施している.
- c 狩猟しようとする地域において野生鳥獣に豚熱が確認された場合は,当該地域で狩猟した個体を食用に供してはならないことが「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針」(厚生労働省)に記述されている.
- d 豚熱ウイルスの浸潤状況調査で捕獲された野生イノシシの豚熱検査を実施し,陰性のものは食用とすることができる.
解答と解説
質問1に対する解答と解説:
正解:c
「業」として食用とする野生鳥獣の食肉加工を行う場合には,食品衛生法の規制対象となる.なお「業」とは,その行為を反覆継続して行うことである.食品衛生法の「営業」とは,「業として,食品若しくは添加物を採取し,製造し,輸入し,加工し,調理し,貯蔵し,運搬し,若しくは販売することまたは器具若しくは容器包装を製造し,輸入し,若しくは販売することをいう.ただし,農業及び水産業における食品の採取業は,これを含まない.」と定義されているので,野生のシカやイノシシ(ジビエ)を恒常的に食肉に処理する施設は食品衛生法の営業許可である「食肉処理業」が必要となる.また,ハム・ソーセージに加工する場合は,「食肉製品製造業」が必要となる.なお,食肉処理業や食肉製品製造業の基準等の詳細は,地方自治体の条例で定めているので,ジビエの食肉処理や加工を実施した場合は,そのジビエ処理・加工を行う場所を管轄する保健所に相談をする必要がある.業」として食用とする野生鳥獣の食肉加工を行う場合には,食品衛生法の規制対象となる.なお「業」とは,その行為を反覆継続して行うことである.食品衛生法の「営業」とは,「業として,食品若しくは添加物を採取し,製造し,輸入し,加工し,調理し,貯蔵し,運搬し,若しくは販売することまたは器具若しくは容器包装を製造し,輸入し,若しくは販売することをいう.ただし,農業及び水産業における食品の採取業は,これを含まない.」と定義されているので,野生のシカやイノシシ(ジビエ)を恒常的に食肉に処理する施設は食品衛生法の営業許可である「食肉処理業」が必要となる.また,ハム・ソーセージに加工する場合は,「食肉製品製造業」が必要となる.なお,食肉処理業や食肉製品製造業の基準等の詳細は,地方自治体の条例で定めているので,ジビエの食肉処理や加工を実施した場合は,そのジビエ処理・加工を行う場所を管轄する保健所に相談をする必要がある.
質問2に対する解答と解説:
正解:a
野生鳥獣は環境省,家畜伝染病は農林水産省,食肉に関しては厚生労働省・消費者庁等が関与している.家畜の豚における豚熱の発生には野生イノシシの介在が疑われているため,猟友会等による積極的な駆除が行われている.さらに,捕獲された野生イノシシについては,豚熱ウイルス感染の確認検査が行われている.
厚生労働省が提示した「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針」(2014年11月,2021年3月改正)には,狩猟しようとする地域において野生鳥獣に家畜伝染病のまん延が確認された場合は,当該地域で狩猟した個体を食用に供してはならないことが記されている.また,農林水産省・環境省は「CSF・ASF 対策としての野生イノシシの捕獲等に関する防疫措置の手引き」(2019年12月)を提示し,工程ごとの衛生管理措置等を基本とし,豚熱ウイルス拡散・交差汚染防止対策を実施している.さらに,捕獲した野生イノシシを地域資源として可能な限り有効活用するため,農林水産省農村振興局消費・安全局から「豚熱感染確認区域におけるジビエ利用の手引き」(2021年4月)が提示されている.
指針や手引書を総合的に判断すると,①家畜伝染病まん延地域で捕獲された野生鳥獣は食用としてはならない.ただし,豚熱流行地域のイノシシは食用としてはならず,野生シカは食用としてもよい.②豚熱流行地域の豚熱ウイルスの浸潤状況調査で捕獲された野生イノシシのみ,その野生イノシシの豚熱検査を実施し,陰性のものは食用とすることができる.③豚熱流行地域の野生イノシシの捕獲から出荷まで(わな等,止め刺し,運搬時,解体,冷蔵保管時等)の各作業では豚熱ウイルス拡散リスクを最小限にする複合的な対策の徹底,を実施しなければならない.なお,上記指針及び手引きは法律ではないが,家畜防疫・食肉衛生の専門家の獣医師として,コンプライアンスを基本として科学的知見を踏まえ,ジビエに携わる人に,上述の①~③について指導していただきたい.
キーワード:豚熱,ジビエ,食品衛生法,指針,手引書.