獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編(日本獣医師会雑誌 第76巻(令和5年)第3号掲載)
質問1:マダニが媒介する人獣共通感染症はどれか.
- a ツツガムシ病
- b ウエストナイル熱
- c リフトバレー熱
- d 日本紅斑熱
- e ライム病
1.a,b 2.b,c 3.a,e 4.c,d 5.d,e
質問2:ノミが媒介する人獣共通感染症はどれか.
- a 重症熱性血小板減少症候群
- b 野兎病
- c ペスト
- d 発疹チフス
- e 発疹熱
1.a,b 2.b,c 3.c,d 4.c,e 5.d,e
質問3:コウモリが媒介する人獣共通感染症はどれか.
- a ニパウイルス感染症
- b デング熱
- c リーシュマニア症
- d アフリカトリパノソーマ症
- e ヘンドラウイルス感染症
1.a,b 2.b,c 3.a,e 4.c,d 5.d,e
質問4:げっ歯類が媒介する人獣共通感染症はどれか.
- a チクングニア熱
- b ラッサ熱
- c ハンタウイルス肺症候群
- d B ウイルス病
- e エボラ出血熱
1.a,b 2.b,c 3.a,e 4.c,d 5.d,e
解答と解説
人獣共通感染症はさまざまな感染経路で発生する.発生に節足動物や哺乳類が関与しており,感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)においても1 類あるいは4 類感染症に類型されている重要な疾病も多い.今回は,マダニ,ノミ,コウモリ,げっ歯類が発生に関与している人獣共通感染症を取り上げて解説する.
質問1に対する解答と解説:
正解:5
日本紅斑熱(4 類感染症),ライム病(4 類感染症)は,マダニが媒介するリケッチア性,細菌性人獣共通感染症である.日本紅斑熱の患者数は近年増加しており,また,発生地も西日本から東へ拡大している.わが国では,ライム病は中部以北(特に北海道)で多くみられている.ツツガムシ病はツツガムシの幼虫により媒介されるリケッチア性人獣共通感染症である.ツツガムシ病には,アカツツガムシが媒介する古典的ツツガムシ病,フトゲツツガムシ,タテツツガムシが媒介する新型ツツガムシ病がある.新型ツツガムシ病は,両ツツガムシの幼虫が出現する秋~初頭にかけて多発する.古典的ツツガムシ病の発生はきわめてまれである.ウエストナイル熱(4 類感染症)とリフトバレー熱(4 類感染症)は,蚊が媒介するウイルス性人獣共通感染症である.過去に米国からのウエストナイル熱の輸入事例が発生したことがある.
質問2に対する解答と解説:
正解:4
ペスト(1 類感染症)と発疹熱は自然界では主に野性げっ歯類とこれを吸血するノミの間で感染が維持されている細菌性,リケッチア性人獣共通感染症である.人はこのサイクルに入り込むことによって感染する.近年,マダガスカルでペストの流行がみられている.日本人がベトナムやインドネシアで発疹熱に感染した輸入事例が報告されている.野兎病は,自然界では主にマダニなどの吸血性節足動物を介してげっ歯類やノウサギの間で維持されており,人は感染動物との接触やマダニの刺咬により感染する.重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は,西日本で発生がみられるマダニが媒介するウイルス性人獣共通感染症である.発疹チフスはシラミが媒介するリケッチア性人獣共通感染症である.
質問3に対する解答と解説:
正解:3
ニパウイルス感染症(4 類感染症),ヘンドラウイルス感染症(4 類感染症)はオオコウモリが感染源動物と考えられているウイルス性人獣共通感染症である.ニパウイルス感染症は,マレーシア,バングラデシュ,インドなどで,ヘンドラウイルス感染症はオーストラリアで発生がみられる.デング熱(4 類感染症)は蚊によって病原ウイルスが伝播される.2014 年と2019 年に国内事例が発生している.リーシュマニア症はサシチョウバエ,アフリカトリパノソーマ症はツェツェバエが病原体である原虫を媒介する.
質問4に対する解答と解説:
正解:2
ラッサ熱(1 類感染症)はアフリカ大陸西部,ハンタウイルス肺症候群(4 類感染症)は,南北アメリカ大陸で発生がみられるウイルス性人獣共通感染症である.人は,げっ歯類の排泄物中のウイルスを吸引して感染する.チクングニア熱(4類感染症)は蚊によって,B ウイルス病(4 類感染症)はサルとの直接的な接触(咬傷,擦過傷)などで感染するウイルス性人獣共通感染症である.チクングニア熱の国内感染事例はないが,B ウイルス病は,2019 年に鹿児島市の実験サル取扱施設で2 例の患者の発生があった.エボラ出血熱の病原巣はまだ明らかではないが,患者や感染したサルなどのウイルスを含む体液等(血液,分泌物,吐物・排泄物)に触れることにより感染する.