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獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編

獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編(日本獣医師会雑誌 第76巻(令和5年)第7号掲載)

食用動物に抗菌性物質を投与し,畜産物に残留することで人に起こる問題として,①直接的な毒性,②アレルギー反応,③残留抗菌性物質による感作により,将来的にアレルギー反応を起こす可能性,④人における耐性菌の出現を助長させる可能性等があります.その他,食用動物において薬剤耐性菌が選択され,その薬剤耐性菌が人に感染する等の問題点が指摘されています.それらの問題を防ぐための対策について取り上げます.

質問1:食品中の抗菌性物質や農薬の残留基準値を決めるため,実験動物に何ら毒性影響が認められない無毒性量を安全係数で割って算出される値はどれか

  • a 一日許容摂取量
  • b 50%致死量
  • c 急性参照用量
  • d 最小毒性量

質問2:食用に供する目的でと畜する前に,動物用医薬品の使用禁止期間を定めている省令はどれか

  • a 動物用医薬品等取締規則
  • b 動物用医薬品及び医薬品の使用の規制に関する省令
  • c 食品衛生法施行規則
  • d 動物用医薬品の使用禁止期間に関する省令

質問3:β- ラクタム系抗生物質等を原因としたアレルギーのうち,アナフィラキシー型の反応に関与する抗体はどれか

  • a IgM 抗体
  • b IgG 抗体
  • c IgA 抗体
  • d IgE 抗体

質問4:薬剤耐性菌を増やさないための抗菌性物質の慎重使用として,求められるのはどれか

  • a 正確な診断を待たず,早期に抗菌性物質を投与する
  • b 一次選択薬として,広い抗菌スペクトルの抗菌性物質を選ぶ
  • c 一次選択薬として,狭い抗菌スペクトルの抗菌性物質を選ぶ
  • d 一次選択薬として,フルオロキノロンを選ぶ

解答と解説

質問1に対する解答と解説:
正解:a
抗菌性物質や農薬が残留する食品を長期間にわたり摂取した場合や,それらが高濃度に残留する食品を短期間に大量に摂取した場合であっても,人の健康を損なうおそれがないように,残留基準値が設定されている.具体的には,わが国における各食品の摂取量を勘案して,食品を通じた農薬の摂取量が,「毎日一生涯にわたって摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量(ADI:一日許容摂取量)」及び「24 時間又はそれより短時間の間に摂取しても健康への悪影響がないと推定される量(ARfD:急性参照用量)」をそれぞれ超えないように設定されている.

ある物質について何段階かの異なる投与量で毒性試験を行ったとき,有害な影響が観察されなかった最大の投与量である無毒性量(NOAEL:NonObserved Adverse Ef fect Level) を安全係数で割って,ADI を求めることができる.

動物実験のデータを用いて人への毒性を推定する場合に,通常,動物と人との種の差として「10 倍」,さらに人の個体差として「10 倍」の安全率を考慮し,それらをかけ合わせた「100 倍」を安全係数として用いる.


質問2に対する解答と解説:
正解:b
動物用医薬品及び医薬品の使用の規制に関する省令では,食用動物に投与された動物用医薬品が,畜産物に残留しないように,食用に供するためにと畜または搾乳する前に,一定期間の動物用医薬品の使用禁止期間を定めている.


質問3に対する解答と解説:
正解:d
アナフィラキシー型アレルギーは,Ⅰ型アレルギーともいわれ,抗菌性物質などの抗原に対する特異的IgE が産生され,その抗体が肥満細胞や抗塩基球に付着する.再侵入した抗原と抗原抗体反応により,ヒスタミン等が肥満細胞から放出されて,毛細血管の透過性亢進等の生体反応が引き起こされる.


質問4に対する解答と解説:
正解:c
抗菌性物質の慎重使用の考え方として,適切な疾病の診断が重要である.そのため,必要に応じて臨床病理検査や,病原体の分離,同定や薬剤感受性試験を行うことも考慮すべきである.その結果に加え,投与法,体内動態,休薬期間等を総合的に考慮して,適切な抗菌剤を選択する.

第一次選択薬は,薬剤耐性菌の出現を極力防ぐため,抗菌スペクトルの狭いものを選択する.ガミスロマイシン,ツラスロマイシン,硫酸コリスチン,フルオロキノロン及び第3 世代以降セファロスポリンは,人の医療において重要な抗菌剤であるため,獣医療では,一次選択薬が無効の場合にのみ,使用すべき抗菌剤である.


キーワード:薬剤耐性菌,残留抗生物質,アレルギー