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獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編

獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編(日本獣医師会雑誌 第77巻(令和6年)第11号掲載)

細菌性食中毒の病因物質及びその感染症について,それらの特徴及び関連する法律の観点から必要な知識を再確認する.


質問1:食品の冷蔵保存中に増殖する可能性のある菌はどれか.

  • a.Yersinia enterocolitica
  • b.Bacillus cereus
  • c.Campylobacter jejuni / coli
  • d.Listeria monocytogenes
  • e.Aeromonas hydrophila

質問2:腸管出血性大腸菌による食中毒・感染症に関して正しい記述はどれか.

  • a.食中毒統計に計上される患者数は,感染症法による届出患者数より少ない.
  • b.本菌が産生する毒素は耐熱性である.
  • c.死亡者の死因の多くは敗血症である.
  • d.発生に明確な季節性は認められず一年中発生する.
  • e.本菌の無症状保菌者は出校停止措置となる.

質問3:ナチュラルチーズ(ソフト及びセミハードタイプに限る)や非加熱食肉製品(生ハム等)に規格基準が設定されている食中毒原因菌に関して正しい記述はどれか.

  • a.本菌の発育至適温度は28℃である.
  • b.本菌は10%食塩加ブイヨン中でも増殖可能である.
  • c.単球増多症は,人の感染時における特徴的所見である.
  • d.本菌は偏性細胞内寄生菌である.
  • e.この規格基準は「検出されないこと」である.

解答と解説

質問1に対する解答と解説:
正解:a,d,e
選択肢のうち,Yersinia enterocolitica,Listeriamonocytogenes 及びAeromonas hydrophila は,4℃でも発育可能である.これらの菌は,冷蔵保存された食材でも食中毒の原因となり得るので注意が必要.Yersinia enterocolitica は,低温細菌であり,増殖至適温度は28℃.Listeria monocytogenes も低温細菌であり, 増殖至適温度は30~37℃.Aeromonas hydrophila は中温性細菌であり,増殖至適温度は30~35℃ とされている.Bacilluscereus の増殖至適温度は28~35℃であり,10℃以下では発育しない.Campylobacter jejuni / coli は,低温に強く,10℃でも数日間生残するが,4℃では増殖しない.


質問2に対する解答と解説:
正解:a
感染症法に基づいて報告される件数の方が圧倒的に多い.腸管出血性大腸菌は,食品衛生法に基づく食中毒病因物質であり,その感染症は感染症法3 類に該当する.2013 年から2023 年の10 年間で,食品衛生法に基づき都道府県等から報告されたEHEC 食中毒事例数は5 ~32 例/ 年で,その平均は約18 例/ 年であった.一方,感染症法に基づき3 類感染症として報告されたEHEC 感染症は,2022 年では,患者2,265 例,無症状病原体保有者1,118 例の計3,383 例であり,毎年約3,000 例前後の届出がある.

b:本菌が産生するベロ毒素は,80℃,10 分で失活する.

c:死亡者の多くは,ベロ毒素の作用により急性腎障害を来たし,Hemolytic uremic syndrome(溶血性尿毒症症候群)に陥り死亡する.

d:夏季に流行のピークがみられる.

e:本菌の無症状保菌者は,学校保健法の規定により出校停止対象外である.腸管出血性大腸菌感染症は,学校保健法で第3 種の感染症に指定されており,その感染者は,医師により感染のおそれがないと認められるまで出校停止となる.しかし,無症状病保菌者に関しては,手洗いの励行等の一般的な予防方法の励行により二次感染が防止できるとの観点から,出校停止対象「外」とされている.


質問3に対する解答と解説:
正解:b
Listeria monocytogenes に関する記述である.

a:本菌の発育至適温度は30~37℃であり,低温(4℃)や12%の食塩濃度下でも増殖できる特徴をもつ.

c:ウサギへの接種では,末梢血中の単核球数が増加するが,人の感染においては必発でない.

d:偏性細胞内寄生菌とは,細胞内でのみ増殖可能で,細胞外では増殖できない細菌を言う.本菌は,細胞内でも細胞外(腸管内や培地中)でも発育できる.

e:ナチュラルチーズ(ソフト及びセミハードタイプに限る)と非加熱食肉製品(生ハム等)を対象として,100 cfu/g 以下という基準が設けられている.


キーワード:腸管出血性大腸菌,Listeria monocytogenes,食品衛生法,感染症法,学校保健法