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娘は幼いころから、働く母親の苦労も喜びも間近で観てきました。
これは、娘自身の生きかたにも影響を受けたのではと思います。
私は母親として優等生ではなかったかもしれませんが、違った形で子供の参考にはなったのではと思っています。

老司どうぶつ病院

出身大学:
日本獣医畜産大学(日本獣医生命科学大学)
卒業年次:
昭和49年度(1975年)
現在の所属:
老司どうぶつ病院

卒業後現在までの略歴

昭和49年4月
九州大学中央検査室 研究補助員
昭和51年3月
臨床代診
昭和51年10月
武蔵野日赤臨床検査室 臨床検査技師として勤務
昭和59年1月
サンバレー動物病院代診(院長 夫)
昭和62年4月
老司どうぶつ病院独立開業

動物病院開業に至った経緯を教えていただけますか?

私は結婚・出産後、夫が院長を務める動物病院で代診を務めていたのですが、代診という立場だと「途中まで担当した診療を中断し、後は夫に任せて家事をしなければならない」ということが多々あり、最後まで責任を持って診療にあたれないという不満がありました。子どもが小学校に上がり比較的育児に手がかからなくなった頃から「やはり獣医師として最初から最後まで責任を持って診療に関わりたい」という思いが強くなってくるように。そんなときちょうど地域の動物病院が閉院することになり、「新しく動物病院を立ち上げ、患者さんを引き継いでくれないか」と打診を受けたのです。そこで思い切って、夫の動物病院とは別に自分の動物病院を立ち上げ、独立することになりました。

独立開業してみてよかったと思われるのはどのような点ですか?

自分ですべての責任を持って診療に取組めることですね。代診時代にはどうしても最後の最後で主人に頼ってしまうこともあったのですが、独立してからは動物の病気を徹底的に探究し、治療にあたれるようになりました。もちろん、その分責任が重くなったのでプレッシャーも感じますが……。独立後は専門書を読む時間も格段に増えましたし、大学の先生にお話を聞いたり、インターネットで調べ物をしたりと、獣医学界の情報を積極的にピックアップするようになりました。最新の情報を精査しては試すという繰り返しを通じて、臨床のスキルはぐんとアップしたと思います。

仕事におけるポリシーは何ですか?

動物のことを第一にかつ飼い主さんの気持ちを最大限に汲み取ってあげて診療に臨むというのが私の診療のポリシーです。
生活におけるポリシーは歳を重ねる毎に変化していますが、現在は人に迷惑がかからなければやりたいことをやる。後ろは振り向かない、将来あるのみ。歳をとったからこそ言えることでしょうか。

仕事の中で特に印象に残っている出来事はありますか?

毎日がやりがいのある仕事の連続なので、特に一つ選ぶというのは難しいですね。最近はミニチュアダックスフンドを診ることが多いのですが、実はこの犬種は歯の疾患が非常に多い割に、専門的な治療をしている動物病院が多くありません。そこで私は歯に特化した治療を始めたのですが、これがすごく評判がいいみたいです。犬の歯の治療というと簡単なものに思われる方もいらっしゃいますが、専門的な治療を本気でやると短くとも1時間、長いと3時間以上かかる大がかりな仕事となります。飼い主さんのほうでは「汚れていた歯がきれいになって、臭いがなくなればいいな」ぐらいに考えていることが多いのですが、歯の疾患が治った犬は短期間で見違えるように元気になるんです。犬が元気になるのももちろんうれしいですし、「こんなに変わると思わなかった!」と飼い主さんに感謝いただけると、頑張った甲斐があったな、と思えますね。

育児と仕事を両立する上で、どんな苦労をされましたか?

今では子どもがいる女性が仕事をするのは当たり前になりつつありますが、私が独立開業した1988年はまだまだ専業主婦が圧倒的に多い時代。共働きをしている女性に対する風当たりはかなり強かった記憶があります。たとえば小学校の父兄とコミュニケーションをとるとき、しばしば「家事よりも仕事を優先し、子育てをないがしろにしている」という風に見られ、つらい思いをしました。また、仕事の場でも、「女性の獣医師さんでも手術ができるの?」とお客様に言われたり、男性の獣医師から「ご主人の病院があるのにわざわざ独立したの?ちゃんとやっていけてるの?」といった心無い言葉をかけられたこともありました。特に当時の九州は昔ながらの男尊女卑の気風が残っており、ストレスを感じることは少なからずありましたね。また、やはり仕事と育児を同時にするのは忙しく、仕事に気をとられて子どもの授業参観を忘れてしまったことなどもありました。

そうしたストレスを解消するための、趣味やリラックスの方法はありましたか?

趣味に割く時間なんてありませんでした! 外部の人からとやかく言われてストレスを感じるときは、そうした意見が気にならなくなるぐらい「仕事」と「家事」に気持ちを注ぎ、没頭するようにしていました。そして幸い、主人は私の仕事への想いをきちんと理解してくれましたし、家事にも積極的に関与してくれました。そうした支えがなければ、家事と育児を両立することは不可能だったと思います。

育児と仕事を両立してよかったと思われますか?

仕事で忙しかったせいで、子どもには負担をかける面も多かったと思います。でも、仕事を続けていたからこそ、子どもと一定の距離を持って冷静に子育てすることができたように思います。また、「働く女性」としての生き方を私が示すことで、娘が自立した女性へと育つ一助になったのでは、とも考えています。娘は幼いころから、働く母親の苦労も喜びも間近で観てきました。これは、娘自身の生きかたにも影響を受けたのではと思います。私は母親として優等生ではなかったかもしれませんが、違った形で子供の参考にはなったのではと思っています。

これから獣医師を目指す学生さんや、現在活躍中の女性獣医師のみなさんに伝えたいメッセージをお願いします!

主婦業と臨床獣医師の仕事の両方を100%でこなすのは、無理です。どうしても主婦業:臨床獣医師=4:6ぐらいの働き方になるでしょう。しかし独立開業している場合は、ある程度自己責任で時間の割り振りができるというメリットがあります。自分との闘いは相当なストレスにはなりますが、やり方を自分なりにコントロールすれば、臨床と育児の両立は可能なはず。昔と比べると働く女性に対する理解はかなり高まっていますので、皆さんも頑張ってください!