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私も育児休職中の経験が、動物病院の経営に大変役に立っています。
飼い主の立場になって考えることや、企業人としての目を持つことは、獣医療現場を離れて社会に接した経験があるからこそだと感じます。

グリーンエバー動物病院 院長

出身大学:
日本大学
卒業年次:
昭和56年度(1981年)
現在の所属:
グリーンエバー動物病院

卒業後現在までの略歴

神奈川県の動物病院勤務
山口県の動物病院勤務
埼玉県の動物病院勤務
娘の肺炎入院により休職
8年間の休職後、動物看護師専門学校の講師勤務
埼玉県の動物病院にて臨床獣医師として復帰、勤務
東京都の動物病院勤務
グリーンエバー動物病院を開業

軽井沢でグリーンエバー動物病院を立ち上げることになった経緯を教えていただけますか?

グリーンエバー動物病院を立ち上げる前は東京の動物病院で勤務していたのですが、当時娘は獣医系大学への進学を希望していました。その学費を捻出するためには勤務獣医師としての収入では無理だと判断し、開業を決意したのです。娘は私立の中高一貫校に通っていたので、最初は通学県内での開業を検討していたのですが、たまたま息抜きに訪れた軽井沢の美しさに感動し、その日に軽井沢での開業を決めました。

軽井沢を選んだ決め手は本当に「直感」ですね。森の美しさや心が軽くなるような空気感にただただ魅了されて、「自分が好きなこの場所で働いてみたい!」と強く感じました。さらに、「環境保全に係る活動がしたい」という子どものころの志が、軽井沢なら実現できるのではないかと直感したのも、動機のひとつ。娘の賛同を得て、決意から1年後に移住・開業しました。

現在の仕事内容を教えてください。

グリーンエバー動物病院では現在、院長の私と、勤務獣医師2名、動物看護師兼トリマー3名、受付事務担当者3名の合計9名が勤務しています(ちなみに、勤務獣医師のうちひとりは私の娘です!)。「人と動物と自然との共生」をテーマに掲げて小動物臨床を手掛けており、「動物と飼い主が元気に楽しく暮らせるよう診療獣医療の立場からサポートすること」を目標として、チーム獣医療に取り組んでいます。

軽井沢に移住してよかったと感じるのはどんなところですか?

毎朝豊かな緑の中を散歩するだけで、好きな土地で暮らせる幸福を味わえます。また、軽井沢ならではの豊かな自然を守るため、「ベセアの森」植樹活動、森林伐採反対署名運動など、自然環境保護活動にも積極的に参加・協力しています。私は日本の里山を長期的に残していきたいと考えているのですが、その場限りの活動では目標を達成することはできません。持続的に機能する環境保全システムをつくる、その一助になれればというのが私の気持ちです。ちなみに所沢にも月1回行き、そちらでも環境保全運動に携わっています。

出産後8年間のブランクを経て復帰されたとのことですが、その際はどのような点に苦労されましたか?また、それを乗り越えるためにどんな工夫をしたか、教えてください。

獣医学の進歩は速く、現場を離れている間にもどんどん新しい技術が登場します。獣医師として職場復帰してからしばらくの間は、やはり休職前とのギャップに戸惑うことは多かったです。ただ、そのギャップがどの程度あるのか、自分の立ち位置を正しく認識できていれば、働きながらブランクを埋めていくことは可能だと思います。

私の場合、娘が中学生になったら職場復帰しようとはじめから決めていたので、休職中も主な学会に出席して最先端の知識を学んだり、同級生に会って刺激を受けたりしていました。おかげで、ブランク明けに感じるギャップも最小限に抑えられたのではないか、と思います。

育児のための休職というとネガティブにとらわれがちですが、ライフステージによる働き方の変化は仕方がないもの。私は逆に、休職中にしかできないことにもトライしたいと考えていました。たとえば美術館で感性を磨いたり、図書館で本を読んだり。趣味で制作したガラス工芸品を販売するなど、ちょっとしたお小遣い稼ぎをするのも楽しかったです。休職中の経験は、どれも今の仕事や生活に活かされていると感じます。

研究にも積極的に関わっているとのことですが、どのようなものですか?

現在私は慶応義塾大学医学部の先端医科学研究所遺伝子制御研究部門に共同研究員として在籍し、ある薬剤の効果に関する研究に取り組んでいます。内容は「サルファ剤とキトサンの合剤が顕著な創傷治癒効果及び育毛効果を発揮すること」に関してで、これまでに2件の特許を得ました。といっても、私はもともと研究者になりたかったわけではありません。日常の治療の中で、皮膚疾患が治りにくい免疫不全の動物などと接している中で、「何とか治してあげたい」と工夫した結果、偶然新しい薬剤の効果を発見した。それが幸い、新薬の研究・開発につながったというわけです。ちなみにこの薬剤の効果はヒトにも有効だと考えられているので、少しでも医学の進歩に貢献できればうれしいです。

動物病院の開業後、一番記憶に残っているハプニングを教えてください。

開業3年目に、病院の建物を賃貸契約していた会社が突然倒産したため、病院を移転しなければならなくなりました。やっと軌道にのってきた矢先の大きなハプニングでしたが、思い切って浅間山の見える環境の良い場所に移転できたことは、今では幸運であったと思います。振り返ってみると、日々起こるハプニングが、周りの方々に支えられてラッキーに変化する毎日でした。今では、ピンチはチャンス!だと思えるようになり、辛い時こそ笑顔で乗り越えられるようになりました。

これから獣医師を目指す学生さんや、現在活躍中の女性獣医師のみなさんに伝えたいメッセージをお願いします!

グリーンエバー動物病院のスタッフは全員女性です。年齢は20代から50代、未婚、既婚、離婚歴あり、子持ち等様々なステージの女性が共に働いている職場です。それぞれの経験を持ち味としてチーム獣医療に生かし、夫々が精神的にも経済的にも自立できる職場にしたいと思っております。

女性は結婚、出産、育児、介護などの様々はステージで立場が変化するため、安定して働けないことがあります。しかし、難しい状況を理由にして志をあきらめることなく、現在できることを少しずつでも実行していれば、休職中の時間でさえ将来に生かせます。

私も育児休職中の経験が、動物病院の経営に大変役に立っています。飼い主の立場になって考えることや、企業人としての目を持つことは、獣医療現場を離れて社会に接した経験があるからこそだと感じます。周囲の人も自分自身にも思いやりを持ち、今を大切にして頑張ってください。