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獣医学というのは研究から臨床まで、幅広いフィールドを視野に入れた学問です。リスク評価・リスクコミュニケーションの業務は、獣医師の職能をトータルに発揮できる、やりがいのある仕事だと感じています。

内閣府食品安全委員会事務局 情報・勧告広報課

出身大学:
北海道大学大学院獣医学研究科形態機能学専攻修士課程
卒業年次:
昭和61年度(1986年)
現在の所属:
内閣府食品安全委員会事務局 情報・勧告広報課

卒業後現在までの略歴

昭和61年4月
北海道職員(日高支庁農務課 農政係)
昭和63年4月
北海道職員 畜産係へ異動
(併職:家畜防疫員、乳製品数量検査員、地方種畜検査員、薬事監視員)
平成3年5月
北海道職員 農政係へ異動
(併職:農業協同組合検査職員、農業共済組合検査職員)
平成6年5月
北海道職員 企画調整係へ異動
平成8年4月
大野犬猫病院採用
平成9年12月
ノエルどうぶつ病院開業
(受任:群馬県非常勤家畜防疫員、群馬県学校獣医師、群馬県教育委員会理科支援員等配置事業特別講師、群馬県家畜自衛防疫指定獣医師、群馬県狂犬病予防業務実施者)
平成20年12月
内閣府食品安全委員会事務局技術参与採用(勧告広報課 勧告モニタリング係)
平成23年8月
内閣府食品安全委員会事務局 評価課残留農薬係へ異動
平成25年3月
内閣府食品安全委員会事務局 勧告広報課リスクコミュニケーション班へ異動

内閣府食品安全委員会へ入ることになった経緯を教えてください。

私は大学卒業後、北海道職員として就職し、農政係、畜産係、企画調整係で勤務しました。退職後は動物病院での勤務経験を経て、動物病院を開業する傍ら、群馬県非常勤家畜防疫員等の仕事をしていました。現在の職場である内閣府食品安全委員会へ技術参与として入ったのは、平成20年のことです。恩師や知人が食品安全委員会に関わっていたこともあり、かねてより関心を寄せていたところ、欠員公募があったので応募しました。食品安全委員会での仕事は、フードチェーン(食品の一次生産から販売に至る、食品供給の行程)全体を見渡せるという点で興味深いものです。また、私は過去に食品安全の川上側(農畜産関係)で行政と現場の仕事を経験しましたし、生活者として感じてきたこともあります。それらの経験すべてを活かせる仕事なのではないか、と考えたのが志望の動機でした。

食品安全委員会ではどのような仕事をしているのですか?

一言で言うと、「食品の安全に係るリスクコミュニケーション」が私の仕事です。具体的には講演の講師、意見交換会のコーディネートやファシリテーション、相談電話およびメールへの回答対応、印刷物の編集・発行、自治体との連絡調整などを行っています。リスク評価を行う場合は科学的な正確さが厳密に求められる一方、リスクコミュニケーションの場では「相手が誰で何を解決しようとしているか」を互いが理解し、そのために必要な内容・密度で意見を共有することが求められます。

「食品の安全に係るリスクコミュニケーション」における課題や、それにどう取組んでいるかを教えてください。

たとえば、食品添加物を無条件に「コワイ」と思っておられる方がいらっしゃいますよね。しかしそれは数十年前のイメージです。今では、安全を守る新しいしくみの中で科学的に安全性が確かめられたものが使われているのに、それをご存知でない場合があるわけです。また、報道や出版物で紹介される食品に関する情報の中にも、不正確なものがまま見られます(「ウケ」を意識したり、時間・紙面の制約を受けたりと理由は様々ですが……)。ところがヒトの脳は「危険」という警報には敏感に反応するようにできていますので、どうしても偏った情報を鵜のみにしてしまいやすいもの。そこで私たちは、偏りのない最新の科学的情報を、全ての方に知っていただくことが必要だと考えています。その上で、どのように考え判断するかは、それぞれの人の価値観や立場が反映します。
「リスクコミュニケーション」では、正しい知識や情報を共有することと、それに基づいた互いの判断や考えの違いを理解し合うことを大切にしています。

どのような点に仕事のやりがいを感じますか?

リスクコミュニケーションにおいて必要とされる「科学的な内容を、不正確にならないよう噛み砕いて伝えるスキル」は、実は臨床家として飼い主ファミリーに対応するスキルと共通するもの。これは一例にすぎませんが、獣医学というのは研究から臨床まで、幅広いフィールドを視野に入れた学問です。リスク評価・リスクコミュニケーションの業務は、獣医師の職能をトータルに発揮できる、やりがいのある仕事だと感じています。

仕事と育児の両立において、印象に残っているエピソードを教えてください。

私の場合は核家族だったので、職場の人、近所の人、保育園の先生方等、周りの人たちに終始支えていただきました。たとえば午後に自分が担当する大きな会議を抱えていた日、昼前に保育園から「お子さんが熱を出しています」と電話が入ったことがあります。途方に暮れていたところ、電話交換手の人が内線で「さっきの、保育園からの電話だったよね。どうした?」と聞いてくれました。事情を話したところ、「じゃあすぐに迎えに行って、家に寄って絵本を1冊持たせて、交換の休憩室に連れておいで。交換手は3人いるから、お子さんは誰かが必ずちゃんと見てあげられる」と提案してくれたんです。他にどうすることもできず、好意に甘えさせてもらい、自分の仕事をまっとうすることができました。今振り返ると、そうしたエピソードが満載の日々でした。

育児をする中で「癒された」「報われた」と感じた瞬間はありますか?

育児は、自分の労苦に対する「癒し」や「報い」を得ようと思ってできるものではありません。親子はお互い相手を選べませんし、「自分が育ててもらった分、今度は自分が育てる番」と思いながら子育てをしていました。ただ、娘たちが小学生のとき、母の日に「おかあちゃんいつもおしごとおつかれさま。」という手紙をもらったときは、仕事を持つ母を認めてもらえたと思い、嬉しかったです。

育児中、リラックスするために心がけていたことはありますか?

育児において自分なりのリラックス方法を持つことは大事だと思います。私の場合は仕事、家庭、という場面を自分なりに切り替えることで、それぞれについて煮詰まらずに済んだことが多々ありました。それから、たまたま職場の先輩ママに誘われて始めたのが生け花。植物と向き合い他のことを頭から追い出せる時間を持てたことは、とてもよかったと思います。

農政、小動物臨床、食品安全等、多分野を経験したことが、プラスになっていると感じることはありますか?

リスクコミュニケーションの中で「食べ物がどうやってつくられるのか、それを行政がどう支えているのか」といった話をすることがあるのですが、かつての現場での経験を基にお話しできるのはプラスになっていると感じます。また、小動物臨床の経験は、専門的なことを噛み砕いて説明するインタープリターとしてのアプローチの仕方や、「最終的な決定権は相手にある」というスタンスを間違わずにコミュニケーションをコーディネートすることにつながっています。

これから獣医師を目指す学生さんや、現在活躍中の女性獣医師のみなさんに伝えたいメッセージをお願いします!

私は農政、小動物臨床、食品安全とさまざまな分野を流転してきました。分野が変わるたびにこれまで積み上げてきたものがゼロになる無力感を覚えていたのですが、50歳ぐらいになってから、これまでやってきたことがひとつにつながっているような気がしてきました。たとえば山をらせん状に登っていると、その場その場で見える景色は全く違うけど、登っているのはやはり一つの山なのだとわかった――そんなイメージですね。昔も今も男女問わず、外的要因でキャリアを手放さなければならない状況に置かれる人は少なくないと思います。でも、それで絶望する必要はありません。様々な経験を積むことで「使える」引き出しが増えることもあるので、ぜひ、前向きに仕事にトライしてほしいと思います。