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獣医師生涯研修事業Q&A 小動物編

獣医師生涯研修事業Q&A 小動物編(日本獣医師会雑誌 第73巻(令和2年)第8号掲載)

症例:シーズー,10 カ月齢,メス,既往歴なし

主訴:8 カ月齢のときに背中の毛の生え方がおかしい部位があることに気が付いた.その後,その部位からまとまって毛が抜けたことがある.現在までに2 回ほど病変部から血様の膿汁を排出した.一般状態は良好であり,生活に支障はない.

一般検査所見:体重4.7kg(BCS:5/9).体温39.0℃,心拍数144/ 分,呼吸数24/ 分.体表リンパ節の腫脹は認められなかった.頸部背側正中の皮膚に脱毛(+),痂皮(-),肥厚(-)の病変が認められ,中心には最大径2mm 程度の小さな穴が認められた(図1).血液検査及び血液化学検査では特に異常は認められなかった.


質問1:本症例の鑑別診断は何か.

質問2:鑑別診断に基づき,どのような追加検査及び治療を行うか.


図1 病変中心部画像
解答と解説

質問1に対する解答と解説:
本症例は8 カ月齢と幼齢であり,病変は背部の正中にあること,犬種がシーズーであることから類皮腫洞が鑑別疾患にあげられる.類皮腫洞は胎生期に外胚葉由来の神経管と表皮との不完全分離が原因で生じる先天性疾患である.好発犬種であるローデシアン・リッジバックでは常染色体優性遺伝による疾患であることが示されており,その他にもシーズーやヨークシャーテリアなどの小型犬種でも報告されているが,遺伝性は明らかになっていない.

本疾患は背側正中に発生する洞管が腹側に向かって皮下組織へと交通し,その状態によってⅠ~Ⅵ型に分類される.Ⅰ型は棘上靭帯に接し,Ⅱ型はⅠ型よりも表層に位置しているが線維性帯により棘上靭帯に付着する.Ⅲ型はより浅く棘上靭帯に接しない.Ⅳ型は最も深く,脊柱管に侵襲して硬膜に接する.表皮と神経管が交通せずに皮下に囊腫を形成する場合にはⅤ型(類皮囊腫),洞管が棘上靭帯まで達し,線維性帯が硬膜まで達しているものがⅥ型と分類される.また,解剖学的な部位により3 つのサブタイプに分類され,a は脊椎に関連したもの,bは鼻梁を除いた頭部,c は鼻梁部に発生したものとされる.臨床症状は洞管の状態により異なり,脳や脊髄の髄膜に通じて運動機能異常や後躯不全麻痺などの神経症状が認められることがある.


質問2に対する解答と解説:
診断には洞管の造影X 線検査やCT 検査,MRI 検査などの画像検査が一般的に用いられている.本症例では年齢及び肉眼所見により類皮腫洞が鑑別診断としてあげられるため,各種画像検査を行った.MRI 検査ではT2 強調画像で低信号(図2),T1 強調画像で等~低信号の皮膚から棘上靭帯に連続する洞管が認められた.洞管の造影CT 検査でも造影剤により増強された洞管が確認された(図3,4).以上の所見から本症例は類皮腫洞のⅠ a 型を疑った.

類皮腫洞は臨床兆候を示さないものもあり,軽度のものでは患部を清潔に保つことで問題ないこともある.しかしケラチン残屑が詰まり,感染や膿瘍を引き起こすこともある.治療としては外科的摘出が推奨され,神経症状がみられる症例では予後は要注意であるものの,症状の改善が認められることが多いとされる.本症例でも外科的摘出が行われ,病理組織学的検査では洞管壁が一部破綻し,炎症性の変化が加わっているものの周囲に皮脂腺や汗腺の構造が確認されるため類皮腫洞と診断された.本症例の血用の膿汁も洞管壁の破綻による炎症が原因と考えられる.

本症例では外科的摘出後の状態は良好であったが洞管が深部まで達していたり深部組織との固着がみられる場合もあるため,類皮腫洞を鑑別疾患に含めた場合はMRI 検査や洞管の造影X 線検査・造影CT 検査なども行ったうえで治療方針を決定する必要がある.

図2 MRI 検査画像
図3 CT 検査画像①
図4 CT 検査画像②

キーワード: 類皮腫洞,先天性疾患,皮膚病