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獣医師生涯研修事業Q&A 小動物編

獣医師生涯研修事業Q&A 小動物編(日本獣医師会雑誌 第77巻(令和6年)第4号掲載)

症例:犬(アメリカン・コッカースパニエル),避妊雌,7 歳齢

既往歴:特になし

病歴及び主訴:来院1 週間前より軽度の活動性及び食欲の低下を認め無治療で経過観察していた.来院2 日前から活動性及び食欲の悪化を認め,この時から尿の色が濃くなった.

誤食,中毒,渡航歴,投薬歴はない.狂犬病及び5種混合ワクチンは毎年接種しており,最終接種は半年前である.ノミ・ダニ・フィラリア予防も毎年実施している.

身体検査:意識レベル清明,体表リンパ節腫大なし,可視粘膜蒼白,結膜の黄染を認めた.

血液検査・血液生化学検査(表・図1):中程度貧血,高ビリルビン血症,ALP上昇,CRP軽度上昇を認めた.

尿検査:pH 8.0,比重 1.031,UPC <0.20,ビリルビン(2+)

腹部・胸部X 線検査及び腹部超音波検査:特筆すべき異常所見は認められなかった.


図1 血液塗抹

質問1:本症例の鑑別疾患は何が挙げられるか.

質問2:最も疑われる疾患の診断のために追加すべき検査は何か.


解答と解説

質問1に対する解答と解説:
まず,プロブレムリストには食欲不振,活動性低下,黄疸,貧血が挙げられる.この中で,不定愁訴は様々な原因で引き起こされるため,黄疸と貧血から鑑別疾患を考える.ただし,貧血に関しては急性経過の場合,出血や溶血などの再生性貧血も非再生性貧血となってしまうことがあるため,現段階で鑑別疾患を絞り込んでいくのは困難である.そのため,この症例では黄疸に焦点を置き,鑑別疾患を挙げていく.

黄疸の鑑別として,肝前性・肝性・肝後性黄疸が挙げられ,本症例は画像検査で肝内及び肝外胆管閉塞が認められなかったことから肝後性黄疸は否定的である.残るは肝前性黄疸と肝性黄疸であるが,ビリルビン以外の肝機能低下を示唆する所見がない(Alb,BUN,Glu,Tcho 正常)事から肝性黄疸の可能性は低く,急性の一般状態の低下とともに貧血を認めている為,肝前性黄疸(溶血)が鑑別上位となる.肝前性黄疸の鑑別としては免疫介在性溶血性貧血,玉ねぎやアセトアミノフェン,亜鉛の摂取によるハインツ小体性貧血,低リン血症,ピルビン酸キナーゼ欠損症やホスホフルクトキナーゼ欠乏症をはじめとする遺伝性疾患,感染性疾患(バベシア症)が挙げられるため,これらの鑑別を絞り込むために追加検査を進めていく[1].


質問2に対する解答と解説:
上記鑑別疾患の中で,シグナルメントや問診内容,検査結果をもとに考えると本症例は免疫介在性溶血性貧血(IMHA)が最も疑わしい疾患として挙げられる.一般的にIMHA は再生性貧血(網状赤血球数 60,000/μl 以上)であるものの,診断時に非再生性貧血を呈した症例も約30%存在するとされるため[2, 3],本症例もIMHA は否定できない.IMHA が疑われる場合はACVIM コンセンサスステートメント[4]に則って診断を行う.はじめに免疫介在性を示唆する所見(球状赤血球症,生理食塩液凝集試験陽性,直接クームス試験あるいはフローサイトメトリ陽性)が2 つ以上あるか,または洗浄赤血球での生理食塩液凝集試験が陽性であるかを確認する.次に,溶血を示唆する所見として高ビリルビン血症/ 尿症,ヘモグロビン血症/ 尿症,ゴースト赤血球が1 つ以上観察されるかどうかを確認する.これらを満たす検査所見が得られればIMHA と診断できる.本症例の場合は図1 より球状赤血球が認められること,血液生化学検査より高ビリルビン血症が認められることから既に免疫介在性を示唆する所見と溶血を示唆する所見を1 つずつ満たしている.よって,追加すべき検査は生理食塩液凝集試験,直接クームス試験あるいはフローサイトメトリ試験である.実際に本症例は溶血を示唆する所見1つに加え,生理食塩液凝集試験陽性(図2),フローサイトメトリ陽性より免疫介在性を示唆する所見が3 つ確認されたためIMHA と診断した.また,続発性IMHA の原因となる可能性のある疾患として感染症,腫瘍性疾患,炎症性疾患,薬剤性が挙げられる.本症例は画像検査より腫瘍性疾患や炎症性疾患は否定的であり,ワクチンをはじめとした薬剤の1 カ月以内の投与歴はなかった.感染症に関しては節足動物媒介性疾患をPCR で否定し,原発性IMHA と診断した.

以上より本症例で最も疑われる疾患の診断のために追加すべき検査は生理食塩液凝集試験,直接クームス試験あるいはフローサイトメトリ試験及び節足動物媒介性疾患検出のためのPCR 検査である.


図2 生理食塩液凝集試験 自己凝集が認められた

参考文献

  • [ 1 ] Ettinger SJ, Feldman EC, Cote ET : Textbook of veterinar y internal medicine, 9th ed, 138-141, Elsevier Health Sciences (2024)
  • [ 2 ] Weinkle TK, Center SA, Randolph JF, Warner KL, Barr SC, Erb HN : Evaluation of prognostic factors, sur vival rates, and treatment protocols for immune-mediated hemolytic anemia in dogs: 151 cases (1993-2002), J Am Vet Med Assoc, 226, 1869-1880 (2005)
  • [ 3 ] Klag AR, Giger U, Shofer FS : Idiopathic immunemediated hemolytic anemia in dogs: 42 cases (1986-1990), J Am Vet Med Assoc, 202, 783-788 (1993)
  • [ 4 ] Garden OA, Kidd L, Mexas AM, et al. : ACVIM consensus statement on the diagnosis of immune-mediated hemolytic anemia in dogs and cats, J Vet Intern Med, 33, 313-334 (2019)

キーワード:犬,免疫介在性溶血性貧血,黄疸