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獣医師生涯研修事業Q&A 産業動物編

獣医師生涯研修事業Q&A 産業動物編(日本獣医師会雑誌 第72巻(令和元年)第9号掲載)

患畜:牛,黒毛和種,去勢雄,9 カ月齢

稟告:初診時より左前肢蹄球節部の腫脹・疼痛著明,触診による骨折端の触知並びに軋轢音は認められず,X線検査(図 1)実施も骨折像を認めなかったことから重度の捻挫と診断された.湿布剤の塗布,テーピング及びギプス固定で治療も効果が認められなかった.初診時より約 50 日経過も著しい跛行(支破)を認め,歩行困難を呈することから,二次診療として紹介された

現症:体温 39.0℃,心拍数 156 回/分,呼吸数 48 回/分,栄養度 6 程度.
左前肢球節部腫脹疼痛著明,初診時よりは症状軽減とのこと,血液生化学検査(表 1)とX線検査(図 2)を実施した.


質問:本症例の診断名と診断のポイントをあげよ.


図 1 受傷直後の X 線像では軟部組織は腫脹しているが,成長板の乖離や関節の変形は認められていない.
図 2 X 線検査結果(X 線写真は正常な右前肢と一緒に撮影)
表 1 血液生化学検査結果
解答と解説

質問に対する解答と解説

診断名:本症例の診断名は「牛左前肢中手骨遠位の成長板骨折と変形性関節症」.

診断のポイント: 本症例は現地の稟告から約 50日経過していた.臨床所見も重度の疼痛と明らかな腫脹が確認され,T・P・R は上昇傾向を示しており,これは疼痛と治療が長期にわたったためと思われた.血液生化学検査からは血糖値とリン濃度及びクレアチニンキナーゼ(CK)の上昇が確認された.これは疼痛によるストレスによる血糖値の上昇と配合飼料の成分によるリン濃度の上昇,受傷の際の筋損傷による CK の上昇が考えられた.また,遊離脂肪酸(FFA)の上昇は食欲の不定によるものと推察した.X 線検査からは現地における稟告から現症に至るまで約 50 日間経過していることから受傷直後の X 線像では確認できなかった重度の化骨化像と中手骨と指骨間関節や第 2-3 指骨間関節の変形が観察された.これが長期の疼痛と腫脹の要因と考えられた.化骨化像は中手骨遠位の成長板部付近に認められたため,成長板骨折の可能性が考えられた.一般的に成長板骨折の場合 X 線像の読影には経験を要する場合がある.初期の場合,成長板骨折は見落とされる可能性がある.このため,X 線検査の再検査が重要となる.多くの場合,1~ 2 週後の再検査で骨膜反応の確認により診断されるケースがある.その他,患肢と比較する目的で正常と思われる側の X 線検査を実施することも推奨される.

成長板骨折の診断には Salter-Harris の分類(表2)が利用されることがある.一般的にタイプが上がるにつれて,成長板の損傷により骨の成長に影響が強くなり,成長に伴う機能障害が発生しやすくなるとされている.牛においては骨折面の重度の乖離または転位や開放性の骨折が認められる場合があり,治療が長期にわたり重度の機能障害や予後不良となる場合がある.

以上のことから,牛においても診断と予後判定には X 線検査が重要であると考えられる.


表 2 Salter-Harris 分類

キーワード:牛、成長板骨折、疼痛、Salter-Harris分類、X線検査