女性獣医師応援ポータルサイト

文字サイズ

  • 標準
  • 拡大

獣医師生涯研修事業Q&A 産業動物編

獣医師生涯研修事業Q&A 産業動物編(日本獣医師会雑誌 第79巻(令和8年)第9号掲載)

症例:ホルスタイン種雌子牛,2 カ月齢,体重37 kg.診療獣医師により臍膿瘍,臍静脈遺残及び肺炎と診断され,1 カ月齢時より抗生剤による加療を受けていたが,症状の改善は認められなかった.その後,肺病変の評価を目的として,肺超音波検査及び病理解剖のため搬入された.肺超音波検査には,動物用超音波画像診断装置(HS-103V,Honda Electronics Co.,Ltd., Toyohashi, Japan)を用い,7.5 MHz に設定したリニア型プローブを使用した.
※なお,本稿における肺超音波画像はすべて「画面左側:背側,右側:腹側」で描出しており,左右のスケールは1 cmである.



質問1:図1 は右第一肋間,図2 は右第三肋間からプローブを当てて描出した超音波画像である.図1 の矢頭は内胸動静脈を示す.各図では,それぞれ右肺のどの部位が描出されているか.

質問2:図1 及び図2 の肺超音波画像において,白丸で示した部位では,正常な含気肺では認められない肺実質様のエコー像が描出されている.この超音波所見の名称を答えよ.

解答

質問1に対する解答
図1:右肺前葉前部  図2:右肺前葉後部


質問1に対する解説
右肺前葉前部はおもに右第一・二肋間から,前葉後部はおもに右第三・四肋間から描出される.前葉後部は心臓の背側に位置するため,まず心臓を指標として前葉後部を確認し,その後,頭側へプローブを移動して前葉前部を描出すると位置関係を把握しやすい(図3-1,図3-2).前葉前部を描出する際には,内胸動静脈が解剖学的指標となる.


質問2に対する解答
コンソリデーション

質問2に対する解説
正常な子牛の含気肺では,肺内の空気によって超音波の大部分が胸膜面で反射されるため,深部の肺実質そのものは描出されない.その代わり,胸膜ラインを起点とする反射アーチファクトが観察される.

代表的な所見であるA ラインは,胸膜ラインとプローブ間で生じる多重反射(reverberation ar tifact)により,胸膜ラインと平行な高エコー線として深部に反復して描出される.各A ラインの間隔は,プローブから胸膜ラインまでの距離(図4,d0)とほぼ等しくなる.呼吸に伴って胸膜ラインが左右に滑るようにみえるlung sliding も正常肺の重要な所見である.A ラインは,その部位の肺が含気していることを示す所見として解釈される(図4).


またB ラインは,胸膜から垂直に伸びる高エコーラインであり,間質の肥厚,水分増加及び炎症などを示唆する.一般的に3 本以上の出現や間隔の狭小化(7 mm以内)は異常と判断される(図5).

B ラインの存在は,間質の炎症,肺水腫及び肺うっ血などを示唆するが,分布や他の所見と併せて解釈する必要がある.


さらにコンソリデーションは,肺炎や無気肺などにより肺胞内の空気が失われ,滲出液や細胞成分で満たされることで超音波が透過し,実質化したエコー像として描出される所見である(図6).


総合評価:気管支肺炎,化膿性,慢性,中等度~重度,被包化膿瘍及び閉塞性細気管支炎

臨床所見:超音波検査により右肺前葉前部から後部にかけて広範囲なコンソリデーションが認められた.

病理解剖所見:右肺前葉前部及び後部に暗赤色の硬結巣が認められ,胸膜との癒着も認められた(図6).

病理組織検査所見:

右肺前葉前部:気管支腔,細気管支腔及び肺胞腔内に好中球の中等度~重度浸潤,また肺胞マクロファージの中等度浸潤,リンパ球及び形質細胞の軽度~中等度浸潤が認められ,多核巨細胞も観察された.さらに細気管支腔には線維素の析出,線維芽細胞及び膠原線維増生もみられ,膿の辺縁には類上皮細胞の浸潤及び線維性結合組織の増生が認められた.

右肺前葉後部:限局性に肺胞中隔内へのマクロファージ,リンパ球及び好中球の軽微~軽度の浸潤が認められた.


まとめ
肺超音波検査では,A ライン,B ライン及びコンソリデーションの理解が診断の鍵となる.コンソリデーションの存在は含気していない肺領域の存在を示唆するものであり,エコー所見(輝度)が必ずしも肺炎の病理を反映しない可能性があることから,聴診を含む身体検査所見と合わせて総合的に評価することが重要である.


キーワード:子牛肺炎,肺超音波検査,B ライン,コンソリデーション