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獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編

獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編(日本獣医師会雑誌 第71巻(平成30年)第11号掲載)

質問 1:ヒトのテニア症の原因寄生虫に関する記述のうち,正しいものはどれか.(複数解答あり)

  • a.テニア症とは,有鉤条虫,無鉤条虫,アジア条虫を原因とする感染症である.
  • b.ヒトが唯一の終宿主である.
  • c.アジア条虫は日本には存在しない.
  • d.無鉤条虫は,自家感染による囊虫症を引き起こす.

質問 2:公衆衛生上問題となる節足動物に関する記述のうち,正しいものはどれか.

  • a.シラミ類は哺乳類によく適応しているが,ネコには寄生しない.
  • b.ヒトにマラリアを媒介する蚊は,日本には生息していない.
  • c.マダニ,蚊,アブで吸血するのはいずれも雌のみである.
  • d.犬条虫(瓜実条虫)の終宿主であるイヌやネコは,中間宿主であるノミに吸血されて感染する.
解答と解説

質問 1 に対する解答と解説:
正解:a,b

a.○
ヒトのテニア症の原因となるのは,テニア科条虫のうち,有鉤条虫,無鉤条虫,アジア条虫の 3 種である.有鉤条虫とアジア条虫はブタ,無鉤条虫はウシが中間宿主となり,ヒトがこれら中間宿主の肉や内臓を生食,もしくは加熱不十分で食べると感染し,小腸で成虫へと発育する.テニア症のおもな症状は,長く伸びた成虫の片節が肛門から排泄されることによる肛門周囲の不快感のほか,多数寄生では腹痛,下痢,便秘などの症状がみられる.

b.○
上記 3 種はいずれもヒトが唯一の終宿主である.

c.×
アジア条虫は,韓国,中国,台湾,タイ,フィリピン,インドネシアなど,ブタの内臓を生食する習慣を持つ地域に分布している.従来,アジア条虫が日本に分布することは知られていなかったが,2010 年以降,国産豚の肝臓を生食したことによる国内感染例が相次いで報告されている.また,過去に国内の患者から検出され,無鉤条虫と同定された虫体を最近になって遺伝子解析した結果,アジア条虫であったという報告がある.アジア条虫と無鉤条虫は形態が酷似するため,無鉤条虫症として誤診された症例が少なからずあると考えられる.

d.×
無鉤条虫ではなく,有鉤条虫である.ヒトは有鉤条虫の終宿主であるとともに,中間宿主にもなりうる.つまり,虫卵を摂取した場合,体内で幼虫(囊虫)に発育する.虫卵のヒトへの感染経路は 2 つある.①腸管内で成虫の片節が崩壊し,放出された虫卵が感染する自家感染,②糞便内に排泄された虫卵を飲食物等を介して摂取することによる経口感染である.腸管内で孵化した六鉤幼虫は,腸粘膜に侵入し,循環系によって全身に運ばれ,体内各所で囊虫が形成される(有鉤囊虫症).無鉤条虫,アジア条虫では,ヒトが虫卵を摂取しても囊虫が発育することはない.


質問 2 に対する解答と解説:
正解:a

a.○
シラミは全生涯を宿主の体表で過ごし,卵を宿主の被毛に産みつける.不完全変態であり,卵から孵化した若虫はすぐに吸血し,三齢の幼虫期を経て成虫となる.シラミは哺乳類に極めてよく適応しているが,ネコなどの食肉類(イヌを除く),有袋類,単孔類,コウモリなどには寄生しない.また,鳥類にも寄生しない.感染すると吸血による強い搔痒を起こすだけでなく,コロモジラミは発疹チフス,塹壕熱,回帰熱を媒介する.

b.×
ヒトに感染するマラリア原虫(Plasmodium falciparum,P. malariae,P. ovale,P. vivax) は,いずれもハマダラカ属の蚊によって媒介される.日本に生息する蚊のうち,シナハマダラカ(全国的に分布)は P. vivax,コガタハマダラカ(沖縄の八重山諸島の一部に分布)は P. falciparum の媒介蚊として知られている.

c.×
マダニは雌雄ともに吸血する.

d.×
吸血により感染する(経皮感染)のではなく,経口感染である.犬条虫(瓜実条虫)の中間宿主は,イヌノミ,ネコノミ,ヒトノミ,イヌハジラミである.イヌ,ネコなどの終宿主は,擬囊尾虫が寄生した中間宿主を食べて感染する.人獣共通寄生虫症であり,ヒトでは中間宿主を誤飲した小児での感染例が多い.


キーワード:人獣共通感染症、節足動物、テニア科条虫