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獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編

獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編(日本獣医師会雑誌 第77巻(令和6年)第3号掲載)

公衆衛生が目指すものの一つが適切なリスクマネージメントであり,このため,法に基づいて各種の基準が設定されている.人の健康を保護し,生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい基準である環境基準は,大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染,及び騒音について設定されている.このほか,特定事業場からの排水,工場や焼却施設からの排煙,自動車の排気ガス,規制対象地域内の悪臭,公衆浴場の水質,燃料油の品質,事務所その他の室内環境などについてもさまざまな基準が設定され,生活環境が守られている.


質問1:大気の汚染に係る環境基準の達成率が最も低い項目はどれか.

  • a.二酸化窒素
  • b.一酸化炭素
  • c.光化学オキシダント
  • d.微小粒子状物質
  • e.トリクロロエチレン

質問2:公衆浴場の浴槽水の水質基準として設定されている項目はどれか(複数可).

  • a.赤痢菌
  • b.サルモネラ属菌
  • c.一般細菌
  • d.レジオネラ属菌
  • e.大腸菌群

質問3:水質汚濁に関する指標のうち,水に含まれる有機物量の指標はどれか(複数可).

  • a.TOC
  • b.n- ヘキサン抽出物
  • c.COD
  • d.SS
  • e.BOD

解答と解説

質問1に対する解答と解説:
正解:c
解説:大気汚染に係る環境基準は,二酸化硫黄,二酸化窒素,一酸化炭素,浮遊粒子状物質,微小粒子状物質,光化学オキシダント,ベンゼン,トリクロロエチレン,テトラクロロエチレン,ジクロロメタン,及びダイオキシン類について設定されている.光化学オキシダント以外の項目は,ほぼ100%環境基準が達成されているが,光化学オキシダントの達成率はほぼゼロであり,この傾向は近年ほとんど変わっていない.

光化学オキシダントはオゾンを主とする酸化性の物質群で,工場や自動車から排出される窒素酸化物や揮発性有機化合物(VOC)が太陽光を受けて光化学反応を起こすことによって発生する.このため,日差しが強く,気温が高い日に高濃度になりやすい.光化学オキシダントの濃度が高くなると目や喉の粘膜に刺激を与え,目がチカチカする,喉が痛いなどの症状が出る場合があり,重症例では呼吸困難を引き起こすこともある.また樹木の葉が落ちたり斑点が生じたりすることもある.光化学オキシダント濃度の1 時間値が0.12 ppm 以上になり(環境基準は0.06 ppm),気象条件からみてその状態が継続すると認められる場合に光化学オキシダント注意報が発令されるが,2022 年は12 都府県で延べ41日発令された.


質問2に対する解答と解説:
正解:d,e
解説:「公衆浴場における水質基準等に関する指針」によって,浴槽水及び原湯・上がり湯についてそれぞれ表のとおり水質基準が定められており,浴槽水の細菌についてはレジオネラ属菌と大腸菌群の基準がある.大腸菌群はグラム陰性無芽胞性の短桿菌で,乳糖を分解して酸とガスを産生する好気性または通性嫌気性の細菌群である.一般的な糞便汚染指標細菌であるが,大腸菌の他にエロモナス,クレブシエラ,エンテロバクター,シトロバクターなども含むため,糞便汚染の指標としての特異性は必ずしも高くない.このため以前は大腸菌群として基準が設定されていたものが大腸菌に切り替えられつつある(水道水,プール水,公衆浴場の原湯・上り湯,水質汚濁に係る環境基準など).

一方,レジオネラ属菌は,水中や土壌中でアメーバ等を宿主として生息している細胞内寄生細菌であるが,衛生管理が不適切な循環式浴槽,冷却塔,水槽などでも増殖し,エアロゾルにより感染する.このため,しばしば公衆浴場での集団感染が発生しており,患者は中高年の男性が多い.2002 年7 月に宮崎県で発生した事例では,295 名が感染し,うち7 名が死亡する惨事となった.その後も入浴施設における感染や死亡例が散発しているため,施設の清掃及び消毒,並びに定期的な水質検査が重要である.


質問3に対する解答と解説:
正解:a,c,e
解説:TOC(全有機炭素)は,水中に存在する有機物の総量を,有機物中に含まれる炭素量で表わしたもので,水道水と公衆浴場の水質基準に採用されている.類似のものにTC(全炭素)があるが,これは無機の炭素も含んでいる.

n-ヘキサン抽出物は水中の油分の指標であるが,厳密には油脂以外のヘキサン可溶成分も含まれる.海域の環境基準,並びに下水道及び公共水域への排水基準に採用されている.

COD(化学的酸素要求量)は,水中の被酸化性物質(主に有機物)を酸化剤(過マンガン酸カリウム)で処理した際に消費された酸化剤の量を酸素量に換算したもので,湖沼と海域の環境基準,同水域への排水基準,並びに水浴場の水質判定基準に採用されている.

SS(浮遊物質)は水中に懸濁している不溶性の不純物で,大きさが1 μmから2 mmのものである.水の濁りの原因で,有機性のものと無機性のものがある.河川及び湖沼の環境基準,並びに下水道及び公共水域への排水基準に採用されている.

BOD(生物化学的酸素要求量)はCOD と同じく水中の有機物の指標であるが,こちらは水を5 日間遮光培養した際に,水中の有機物が微生物によって酸化されて消費された溶存酸素量である.河川の環境基準,並びに下水道及び公共水域(湖沼・海域以外)への排水基準に採用されている.


キーワード:環境基準,水質汚濁,大気汚染,公衆浴場