獣医師生涯研修事業Q&A 公衆衛生編(日本獣医師会雑誌 第79巻(令和8年)第3号掲載)
質問1:トリヒナ(旋毛虫)について正しい記述はどれか.
- a.冷凍により死滅する
- b.日本でのヒトへの感染源はイノシシ肉が重要である
- c.と畜検査で豚にトリヒナ幼虫が検出された場合は部分廃棄する
- d.世界的には豚肉が重要な感染源である
- e.宿主の小腸に幼虫が,骨格筋に成虫が寄生する
質問2:馬刺しによる食中毒の原因であり,厚生労働省により冷凍処理が通知されているSarcocystis fayeriについて正しい記述はどれか.
- a.粘液胞子虫の一種である.
- b.ヒトはスポロシストの経口摂取により感染する.
- c.最も多い症状は発熱である.
- d.食肉内では渦巻き状の形態をとる.
- e.骨格筋に寄生する.
質問3:食中毒統計において平成30 年以降,病因物質別事件数が最多である食中毒病原体は何か.
- a.ノロウイルス
- b.カンピロバクター・ジェジュニ/コリ
- c.アニサキス
- d.病原大腸菌
- e.サルモネラ属菌
解答と解説
質問1に対する解答と解説:
正解:d
世界的には特に欧米を中心に豚肉が重要な感染源であり,年間1 万人以上の感染例が見られる.しかし,他にもクマ肉,シカ肉,馬肉,イノシシ肉による事例も報告されている.
- a.長期間の冷凍でも死滅しない種(T. nativa)がいるため,十分な加熱が有効である.
- b.日本ではクマ肉がヒトへの主な感染源である.これまでに,1974 年(青森県),1981 年(北海道),1984 年(三重県),2016 年(茨城県),2019 年(北海道)でクマ肉によるトリヒナ感染症の集団発生が起きている.
- c.と畜場法により,豚にトリヒナ幼虫が検出された場合は全部廃棄が定められている.
- d.最低訓練期間や資格要件は存在しない.HACCPの導入には,訓練を受けた担当者や専門家の指導を受けることが望ましいが,具体的な資格要件は定められていない.
- e.ヒト,各種肉食獣,ネズミ,イノシシなどの小腸に体長約3 mmほどの成虫が寄生し,全身の骨格筋に体長1 mmほどの幼虫が寄生する.ヒトは食肉中の幼虫を経口摂取し,感染する.初期には下痢や腹痛を主徴とする腸トリヒナ症がみられ,幼虫が骨格筋へ移行すると顔面浮腫,筋肉痛,呼吸困難等を呈する急性期筋肉トリヒナ症となる.幼虫が骨格筋で被囊すると,慢性期筋肉トリヒナ症となり,貧血,全身浮腫,心不全や肺炎を発症し死亡することもある.一方ヒト以外の動物では無症状のことが多い.
質問2に対する解答と解説:
正解:e
Sarcocystis fayeri に関する記述である.
終宿主が環境中に排出したスポロシストを中間宿主が経口摂取すると,宿主体内でスポロゾイトが放出され,血管内で無性生殖を行ったのち最終的に骨格筋に到達してシスト(サルコシスト)を形成する.中心温度-20℃で48 時間以上の処理により失活するとされている.ウマ以外にも多くの家畜が中間宿主となり,ウシ,ブタ,ヒツジ,ヤギ,ラクダ,スイギュウ等にも感染する.近年ではシカ肉での住肉胞子虫(Sarcocystis spp.)による有症苦情事例も報告されている.
- a.コクシジウム亜綱,肉胞子虫科肉胞子虫属に属する
- b.加熱不十分の食肉中のシスト(ブラディゾイトを内包)の経口摂取により感染する.
- c.嘔吐・下痢・腹痛等の消化管症状を主徴とする.
- d.骨格筋に寄生するシストは,筋線維に沿った幅0.5 mm 長さ5 ~7 mm程度,大きいものでは10mmの糸状を呈する.
質問3に対する解答と解説:
正解:c
日本での食中毒事件数は平成30 年以降,アニサキスを原因とするものが最多である.
ヒトの感染経路はアニサキスの第3 期幼虫が寄生した海産魚介類の生食による.アニサキス科の中でも特にAnisakis simplex が重要である.症例のほとんどは食後数時間に発生する激しい上腹部痛と嘔吐を伴う劇症型胃アニサキス症である.アニサキスを原因とする食物アレルギーも知られており,食後数十~数時間で誘発される.蕁麻疹を主徴とするが,アナフィラキシーを示す急性症状も報告されている.
- a.病因物質別患者数はノロウイルスが最多である.
- b.カンピロバクター食中毒は,わが国における細菌性食中毒の中では最も事件数が多い.潜伏期が比較的長いため,食中毒発生時における原因食品の特定及び菌分離が難しいことから,原因食品不明である事例が多い.
- c.食品衛生法に基づく食中毒統計に計上される患者数は感染症法に基づく3 類感染症として報告された腸管出血性大腸菌感染者数を含まない.実際には感染症法での報告件数の方が食中毒統計を大きく上回る(図).
- d.サルモネラ属菌はさまざまな動物の腸管常在菌であり,環境中にも分布するため,食中毒の原因食品は動物由来食品に限らず野菜や菓子等多岐にわたる.食品衛生管理の徹底により,先進国では発生件数は減少傾向にあるが,いまだに多くの国々で食水系感染症として重要視されている.
キーワード:住肉胞子虫,アニサキス,トリヒナ,寄生虫性食中毒,食中毒統計