症例:猫,雑種,避妊雌,9 カ月齢
既往歴:なし(1 カ月前まではまったく問題なしとのこと)
主訴:吐出
現病歴:3 週間前に他院にて避妊手術を実施.術後翌日より吐きが認められるようになり,飲水は可能で食欲もあるが,食べると吐く状態が続き,メトクロプラミド,ファモチジン投与にもまったく反応しないとのことで,精査のため当院に来院.
初診時身体検査所見:体重2.4kg,BCS 2/5, 体温38.3℃,心拍数100 回/ 分,呼吸数30 回/ 分.視診,触診,聴診では明らかな異常は確認できない.口腔内も観察したが異常はみられない.
血液検査所見:明らかな異常は確認できない(表)
胸部X 線造影像:単純X 線検査では食道の異常は明瞭ではなかったので,ガストログラフィンを用いて食道の造影X 線検査を行った.造影剤投与後1 分後に撮影を行ったところ,心基底部より頭側の食道が拡張して造影剤が貯留している像が確認された(図1).胃内にも一部造影剤は流入していた.症例はその後造影剤を吐出した.
質問1:一般的にこのような食道造影像から疑われる疾患を挙げ,本症例における可能性について論じなさい.
質問2:本症例ではガストログラフィンを用いて食道造影を行っているが,もし明瞭な異常が確認できなかった場合に,どのように造影法を変えることが望ましいか?
上部内視鏡検査所見:麻酔下で上部内視鏡検査を実施したところ,頸部食道では明らかな異常はみられなかったが,胸部食道に入ったところで重度の狭窄部(直径2mm程度)が認められた(図2).狭窄部周囲はあまり重度の炎症像は確認できなかったが,炎症後の瘢痕形成と判断して,バルーン拡張術を実施した(図3A,B).拡張後症例はペースト状の食物摂取が可能となり,自宅にて給餌を続けてもらったが,処置後10 日を過ぎた頃から再び吐出がみられるようになり来院.内視鏡検査にて再狭窄を確認し,再度バルーン拡張術を実施した.その後は再発なく経過している.
質問3:食道狭窄(瘢痕形成)に対するバルーン拡張術を実施する際のインフォームドコンセントとして重要なポイントをあげなさい.
質問4:本症例の食道狭窄(瘢痕形成)の原因として最も可能性が高いものはなにか?また医原性の猫の食道炎の原因として一般的に注意すべき薬剤とその予防法について述べなさい.


心基底部よりやや前方に狭窄部があり,その吻側で食道が拡張し造影剤が停留している.一部は胃内に流入していることから完全閉塞ではないことがわかる.

胸部食道(心基底部付近)にて,食道が狭窄して,わずか2mmほどの穴(矢印)が確認できるほどになっている.狭窄部周囲は重度の炎症は認められない.

内視鏡下で6mmのバルーンダイレーターを挿入し,水を用いてバルーンを膨らませて狭窄部を拡張した(A).拡張後は軽度に出血したが,裂孔などはみられなかった(B).本症例は2 回のバルーン拡張術で,その後再狭窄はみられなかった.