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獣医師生涯研修事業Q&A 小動物編

獣医師生涯研修事業Q&A 小動物編(日本獣医師会雑誌 第74巻(令和3年)第12号掲載)

症例:猫,アメリカン・ショートヘア,避妊雌,2歳齢.

主訴:3日前から急に嘔吐,食欲廃絶,血尿が認められたとの主訴で当院を受診.

一般身体検査:テントテストの延長が認められた.

血液検査:BUN(139mg/dl),Cre(8.76mg/dl), カリウム(6.2mEq/l),リン(8.4mEq/l)の増加が認められた.

腹部X線検査:右側腎臓領域と第4腰椎領域に結石が疑われる不透過性亢進物質,左側腎臓の腫大が認められた(図1,2).

腹部超音波検査:右側近位尿管の軽度水尿管(図3)と左側腎盂の重度拡張が認められた(図4).


質問1:急性の尿管閉塞の初期対応として適切な処置として考えられるものは何か.

質問2:近年,猫の尿管結石で問題となっている結石は何か.

質問3:本症例で想定される治療法について答えよ.


図1 腹部X線ラテラル像
図2 腹部X線VD像
図3 右側腎臓の超音波所見
図4 左側腎臓の超音波所見
解答と解説

質問1に対する解答と解説:
尿管閉塞の診断は腎盂拡張の程度にかかわらず,水腎症並びに閉塞性尿管結石より近位に水尿管を伴う超音波検査所見に基づくとされている[1].本症例は両側に尿管結石が認められ,左側腎臓は重度水腎症を伴っており,左側尿管閉塞は経過が長いことが予想された.一方で右側腎臓では近位尿管の水尿管が確認されるのみであった.今回の急激なBUN,Cre,カリウム,リンの上昇や食欲廃絶,嘔吐といった臨床症状を示すクリティカルな状態を引き起こしたのは右の尿管閉塞によるものと考えられた.こういったケースに遭遇した場合,迅速な状態の安定化と閉塞の解除が初期対応として重要である.血中カリウム濃度が7.0mEq/lを超える場合や高カリウム血症による心電図に異常が認められた場合にはそれに対する治療をはじめに行う必要がある.症例の状態が安定したら,質問3 で解説するような外科治療がすぐに実施できる場合,外科手術が閉塞の解除の第一選択になる.水腎症が確認されたが外科手術がすぐに実施困難な場合,腎瘻チューブの設置を行い腎盂の圧を一時的に解除する.しかし腎瘻チューブの設置はあくまで一時的な救済処置であり長期間の留置は感染のリスクがあるため,なるべく早く外科手術を実施するべきである.本症例では高カリウム血症による心電図の異常は認められなかったが,脱水が認められたため晶質液の輸液により十分に水和したのち,外科手術による閉塞の解除を実施した.


質問2に対する解答と解説:
猫の尿路結石は2005~2018年の間でストラバイト結石の数は緩慢に増加している一方,シュウ酸カルシウム結石の数は緩慢に減少していると報告されている[2].しかし,上部尿路結石ではシュウ酸カルシウム結石が有意に多く,98%を超えるとの報告もある[2, 3].また,尿管結石がある猫の85%で腎結石も保有しており,尿管1つあたり複数個存在しているという報告もある[4].したがって,1個尿管結石を発見したら他にないか十分に注意して検査を進めるべきである.本症例では追加検査としてCT検査を実施し,両側尿管に結石が1個ずつ存在しており,両側に腎結石も認められた.術後,摘出した結石を分析したところシュウ酸カルシウムであった.


質問3に対する解答と解説:
尿管結石に対する治療法は内科療法と外科療法がある.内科療法としては輸液療法やα遮断薬,マンニトールなどの浸透圧利尿薬,尿管平滑筋弛緩薬,抗生物質などの投薬があげられるが,積極的な内科治療を行ったとしても17%の症例のみでしか尿管結石を動かすことができなかったと報告されている[5].したがって,外科療法が治療の第一選択である.外科療法は尿管切開や尿管ステント,皮下尿管バイパスシステム(SUBシステム)の設置などがあげられる.尿路結石の治療に関する米国獣医内科学会(ACVIM)コンセンサス推奨では猫の閉塞性尿管結石は尿管ステントやSUBシステムによる治療が第一選択であるとしている[1].SUBシステムは手技が他の術式と比較すると簡便であることや合併症発生率も低いことから近年よく用いられている.さらに,尿管結石の摘出を同時に行わなくても合併症発生率や生存期間に影響を与えないことも報告されている[6].しかし,SUBシステムはまだ新しい術式であり,長期的な予後が不明である点や定期的なSUBシステムの洗浄が生涯必要となり,飼い主の負担も少なくない.したがって,筆者らは尿管結石の症例すべてでSUBシステムを使用するというよりは,結石が1個のみの場合や若齢である症例にはむしろ尿管切開による尿管結石摘出術を選択しても良いのではと考えている.

本症例では,まだ2歳と若齢であったため両側の尿管切開による尿管結石の摘出を実施した(図5).また,左側腎臓には腎瘻チューブの設置を行い3日間留置した.術後1日目にはCre は1.2mg/dlまで低下しており,術後6日目には食欲も改善し退院した.

図5 左側尿管切開の術中所見
切開部位より近位の尿管の拡張が認められた.
右側尿管切開も同様に実施した.
矢印:尿管切開部位 矢頭:左側腎臓
参考文献
  • [ 1 ] Lulich JP, Berent AC, Adams LG, Westropp JL, Bar tges JW, Osborne CA : ACVIM small animal consensus recommendations on the treatment and prevention of uroliths in dogs and cats, J VetIntern Med, 30, 1564-1574 (2016)
  • [ 2 ] Kopecny L , Palm CA, Segev G, Larsen JA, Westropp JL : Urolithiasis in cats: Evaluation of trends in urolith composition and risk factors (2005-2018), J Vet Intern Med, 35, 1397-1405 (2021)
  • [ 3 ] Defarges A, Dunn M, Berent A : New alternatives for minimally invasive management of uroliths: lower urinar y tract uroliths, Compend Contin Educ Vet, 35, E1 (2013), (online), (DOI: 10.1080/0158037x.2012.712037)
  • [ 4 ] Berent AC, Weisse CW, Todd K, Bagley DH : Technical and clinical outcomes of ureteral stenting in cats with benign ureteral obstruction: 69 cases (2006-2010), J Am Vet Med Assoc, 244, 559-576 (2014)
  • [ 5 ] Kyles AE, Hardie EM, Wooden BG, Adin CA, Stone EA, Gregor y CR, Mathews KG, Cowgill LD, Vaden S, Nyland TG, Ling GV : Management and outcome of cats with ureteral calculi: 153 cases (1984-2002), J Am Vet Med Assoc, 226, 937-944 (2005)
  • [ 6 ] Butty EM, Labato MA : Subcutaneous ureteral bypass device placement with intraoperative ultrasound guidance, with or without microsurgical ureterotomy, in 24 cats, J Feline Med Surg, 1098612X211002014 (2021), (online), (DOI: 10.1177/1098612X211002014)

キーワード: 猫,尿管結石,尿管閉塞,水腎症