獣医師生涯研修事業Q&A 小動物編(日本獣医師会雑誌 第79巻(令和8年)第2号掲載)
症例:犬(ウェルシュ・コーギー),6 歳3 カ月,避妊雌
主訴:細菌尿
病歴:約1 年前からの血尿と頻尿,尿検査及び細菌培養検査に基づき複数の抗菌薬の投与を受け,症状は改善するもののすぐに細菌尿を呈していた.
現症及び身体検査:一般状態は良好で,食欲・活動性ともに保たれていた.外陰部低形成や膣腫瘤は認めなかった.
血液検査:完全血球計算に大きな異常は認められなかった.血清生化学検査では,血中尿素窒素(BUN)は7.3mg/dl(参考値9.2~ 29.9)と軽度低値,アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)は89 U/l(同18~71)と軽度高値を示した.その他の肝酵素,アルブミン,グルコース,コレステロールなどに明らかな異常は認められなかった.
尿検査:尿比重は1.016 と低値であり,pH8.0,蛋白強陽性,潜血強陽性であった.尿沈渣では多数の赤血球と白血球,桿菌が認められた.尿結晶は検出されなかった.
画像検査:腹部X 線検査では,肝サイズの低下と両腎にX 線不透過性の低い陰影が認められた(図1).腹部超音波検査では両側腎盂領域において,音響陰影を呈する高エコー構造物を認めた(図2).膀胱内には,高エコー源性の浮遊物及び沈渣が観察された.
以上より,中齢の犬で小肝症,低比重尿,両側腎結石,複雑性尿路感染症を認める症例として,さらに精査・治療方針の検討が必要と判断された.
質問1:本症例で鑑別すべき基礎疾患として,どのような疾患が考えられ,追加検査は何が必要か.
質問2:本症例における尿石症及び複雑性尿路感染症と基礎疾患との関連,ならびに治療・モニタリングで留意すべき点は何か.
解答
質問 1 に対する解答と解説:
鑑別診断:門脈シャント,門脈低形成,遺伝性代謝性疾患,結石のバイオフィルム形成など
追加検査:肝機能検査,造影CT 検査,肝生検,逆行性尿路造影検査,膀胱鏡検査など
本症例は,臨床症状は細菌尿のみで,一般状態も良好であった.したがって,主訴である尿路異常の探索にのみ注視しやすい.一方で,ALT の上昇,小型の肝臓,X 線の不透過性が低い結石様陰影など,肝臓疾患を疑う所見がみてとれる.本症例の造影CT 検査では,肝臓は全体に縮小しており,門脈系から後大静脈へ流入する単一の異常血管が描出された.異常血管は左胃静脈から起始し,肝臓を経由せずに後大静脈へ合流していた.両腎には明瞭な高吸収結石が認められた.さらに,総胆汁酸濃度は空腹時22.6 μmol/l(参考値~ 7.9),食後52.4 μmol/l(同~ 24.5)といずれも上昇していた.血中アンモニア濃度は149 μg/dl(同16~75)と高値であった.小肝症,BUN 低値,高アンモニア血症,総胆汁酸濃度の上昇,造影CT における左胃静脈から後大静脈へ至る単一の異常血管,などの所見から,先天性門脈体循環シャント(cPSS)が強く示唆された.脾静脈や左胃静脈などから後大静脈へ流入するシャント血管の一部は,胃,肝臓,横隔膜などに圧迫されて呼吸や胃の影響を受けるため,シャント血管の発育が乏しくなる.そのため,成長不良や肝機能障害を呈さない場合がある[1].今回,排泄性尿路造影検査や膀胱鏡検査は必須ではないが,異所性尿管や尿膜管遺残の除外,膣,尿道腫瘤などの検出しづらい下部尿路病変の検出に有用である.
質問 2 に対する解答と解説:
肝機能障害に伴う尿酸系結石形成が複雑性尿路感染症の原因である.長期的な腎臓内への結石形成と細菌感染を経て,腎臓結石にバイオフィルムが形成される可能性がある.この際に,抗菌薬投与により尿培養や結石表面の菌が検出されなくなっても,結石内部に残存する細菌が検出されることがある.これは,結果的に抗菌薬抵抗性を生じる要因となるため,抗菌薬の使用には非常に注意が必要である.本症例は,第35 病日に開腹し,異常血管に対してアメロイドコンストリクターによる部分結紮術を実施するとともに,出血の主原因と想定される左腎を切開して結石を摘出した.摘出結石の分析では主成分は尿酸アンモニウムであった.腎結石の細菌培養検査ではEscherichia coli が検出された.
PSS では,腸管由来のアンモニアやその他の窒素化合物が肝臓で十分に解毒されず,体循環へ流入するため,高アンモニア血症を生じやすい.過剰なアンモニアは腎臓からアンモニウムイオン(NH4+)として排泄され,同時に,プリン代謝産物である尿酸の排泄も増加することで,尿中で尿酸とアンモニウムが結合し,尿酸アンモニウム結晶・結石が形成されやすくなる.この結石による出血制御を考えた場合,腎切開のみを実施する考えもある.しかし,基礎疾患であるPSS が存在し,結石再形成のリスクが高い.腎膿瘍など敗血症に移行するような状況を除いて,PSS の治療を第1 優先とし,安定した段階で腎結石の対応に移ることが望ましい.また,アメロイドコンストリクターはシャント血管の完全閉塞まで約2 ~ 3 カ月を要することが想定される.したがって,肝臓機能の改善まで,低タンパク質と低プリンの肝臓病療法食やクエン酸製剤での結石再形成予防と結石溶解を検討する.
参考文献
- [ 1 ]Konstantinidis AO, Patsikas MN, Papazoglou LG, Adamama-Moraitou KK : Congenital Portosystemic Shunts in Dogs and Cats: Classification, Pathophysiology, Clinical Presentation and Diagnosis, Vet Sci, 10:160 (2023), doi : 10.3390/ vetsci10020160, PMID : 36851464, PMCID : PMC9961057
キーワード:犬,複雑性尿路感染症,門脈体循環シャント,腎結石,尿酸アンモニウム