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獣医師生涯研修事業Q&A 小動物編

獣医師生涯研修事業Q&A 小動物編(日本獣医師会雑誌 第79巻(令和8年)第4号掲載)

症例:雑種猫,7 歳齢,避妊雌

主訴と病歴:年前より間欠的な咳嗽を認めており,都度対症療法を実施していたが,咳嗽の頻度が増加してきた.その他に症状はなく,活動性,食欲は良好である.ワクチン接種済,FeLV/FIV 陰性.7 年前に保護した猫で,既往歴はない.

身体検査:体重6.8 kg,体温38.4℃,心拍数192 回/ 分,呼吸数36 回/ 分


図1 胸部右ラテラル像
図2 胸部左ラテラル像
図3 胸部VD 像

質問1:胸部X線検査で認められる異常所見を挙げなさい.

質問2:X 線所見から考えられる鑑別診断を挙げ,それぞれの疾患で想定される画像所見について述べなさい.

解答

質問 1 に対する解答と解説:
右前葉では透過性が均一に低下しており,VD 像では気管支透亮像(エアブロンコグラム)を認める(図4:矢頭).左ラテラル像では,通常であれば心陰影と重複して描出される右中葉の血管影が確認できないため,右中葉でも同様に透過性の低下が生じていると判断される.左前葉は一部で含気しているようにも見えるが,VD 像では透過性の低下した領域を認める(矢印).また,ラテラル像では前葉と後葉の境界を示すlobar sign が2 本描出されており(図5:矢頭),右肺だけではなく左前葉後部にも透過性の低下が存在することが示唆される.

次に,気管は腹側及び右側へ大きく弯曲し,VD像では心陰影が頭側に偏位して不明瞭となっている(図4,5).これらの所見は,前述の肺葉に生じた透過性低下が容積減少(無気肺)を伴っていることを示す.無気肺では,肺の容積減少により周囲の構造が罹患肺に向かって牽引される.本症例では,両側の前葉が無気肺となっているため,心臓及び気管分岐部が頭側に牽引されて偏位し,結果として気管が弯曲していると考えられる.

したがって,本症例のX 線画像で認められる含気肺の大部分は,代償性に過膨張した後葉と考えられる.これらの領域では気管支陰影がやや明瞭となり(気管支パターン),さらに複数の結節影(矢頭)を認める(図6:矢頭).


図4 VD 像の拡大像
図5 右ラテラル像の拡大像1
図6 右ラテラル像の拡大像2

以上より,本症例で認められる主な異常所見は以下のとおりである.

  • 1. 両側前葉及び右中葉における無気肺
  • 2. 後葉における気管支パターン
  • 3. 複数の結節影

質問 2 に対する解答と解説:
本症例で認められた異常所見は,両側前葉及び右中葉の無気肺,後葉の気管支パターン,さらに複数の結節影である.これらの所見を踏まえ,まず無気肺の原因を検討する.

無気肺の原因としては,①気管支閉塞(気管支炎による粘液栓,肺門部腫瘍など),②間質の線維化(特発性肺線維症など),③肺サーファクタント機能低下(肺塞栓など)が挙げられる.このうち,肺葉単位で明瞭な無気肺を形成しやすいのは気管支閉塞であり,猫ではその原因として気管支炎(猫喘息)が最も一般的である.猫喘息では慢性気道炎症により気管支壁が肥厚し,攣縮や狭窄が生じ,さらに分泌亢進した粘液が閉塞物質となる.これにより呼気時に気道閉塞が起こり,肺の過膨張を生じ,閉塞が完全であれば無気肺を呈する.また,末梢気道内に貯留した粘液栓が結節影として描出されることもあり,これらは本症例のX 線所見とよく一致する.

肺門部腫瘍やリンパ節腫大も気管支閉塞を引き起こし得るが,多くは片側性で,肺門部に腫瘤影を認めることが多い点が本症例とは異なる.特発性肺線維症及び肺塞栓の画像所見は多彩であるが,特発性肺線維症では通常びまん性変化が主体であり,肺塞栓症では急性の呼吸困難や基礎疾患を伴うことが多く,いずれも本症例とは臨床像が合致しない.

以上より,本症例では猫喘息の可能性が最も高いと考えられる.診断には気管支肺胞洗浄による細胞診や気管支鏡検査が有用である.本症例ではこれらは実施されなかったが,猫喘息に対する治療で良好な反応が認められた.


キーワード:猫喘息,胸部X 線,無気肺,粘液栓